第148話 さらば、嵐の谷

 嵐の谷からアウドラの町へと戻ってきた俺たちは、王都へと戻る準備を進めていた。


 あの崖の上の畑については、エクブルームさんが管理をしていくことになったという。畑を守ろうとしていた怪鳥も直接危害を加えてくることはなかったため、今後も様子を見ていくという。


 エクブルームさんも幼い頃から怪鳥とは仲良くしているらしく、父の友人でもあるその存在を邪険に扱うことはできないと言っていた。まあ、あの様子だと、エクブルームさんとも良好な関係を築けているとみていいな。


 さて、今回の旅はなかなか収穫が多かった。

 ハリケーン・ガーリックを入手できたし、これを通して魔法兵団とのつながりができたのも大きい。


 ――って、待てよ。

 

「…………」

「どうしたのよ、ベイル。ハリケーン・ガーリックをジッと見つめて」

「いや……そういえばさ、このハリケーン・ガーリック同様、七大属性の基礎能力を向上させる野菜があったなぁと思って」


 この世界のおける魔法の属性は、大きく分けて七つある。

 うちでも育てているフレイム・トマトやサンダー・パプリカもそれぞれの属性に対して能力控除の効果を得ることができる。


 だが、ハリケーン・ガーリックは別格だ。

 最上位種と言っていい。

 そのうちのひとつであるハリケーン・ガーリックを入手したことで、他の属性の野菜も育てて見たくなってきたのだ。

 今回は魔法兵団からの依頼ということで引き受けたが……今度は自分で他の野菜の情報を集めてみるか。


「ベイル殿! 準備が整いましたよ!」


 そんなことを考えていたら、マルティナが俺を呼びに来た。

 いろいろあったこの地も、離れるとなったら寂しくなるな。

 まあ、本当は行きに比べるとひとり増えているから、賑やかになっていると言った方が正しいんだけど。 


「君はすぐに物事を難しい方向へ考える癖があるね。悩みすぎるというのもそれはそれで厄介な面もあるんだよ?」

「でも、そのおかげでアイリアは過ちを犯す前に踏みとどまれたじゃないか」

「むっ……そう言われると何も言い返せないな」


 新たに農場の一員として加わったアイリアは、苦笑いを浮かべながら頬を指先でポリポリとかく。

 ずっとひとりで生きていたという彼女は、俺たちとの共同生活をとても楽しみにしているという。これまで、決まった家があるわけでもなく、常にあちこち移動しながら暮らしていたとも言っていた――つまり、俺たちの住むツリーハウスは、彼女にとって初めての家になるのだ。


 ……実際のところ、なぜ彼女がそのような生活をしなくてはならないのか、本当の理由は他にあるのだろう。両親も知らないとは言っていたが、知らないというより話したくはないってこともあり得る。


 その辺は、今後の彼女との生活で少しずつ打ち明けてくれるのを待つしかない。マルティナとヒューゴさんの親子関係だって、しばらくは分からなかったわけだし。


 最後の荷物を馬車へ積み込んだ後、俺たちのもとを訪ねてきた人物がいた。

 それは、


「君たちともお別れか。寂しくなるな」


 エクブルームさんだった。

 わざわざ見送りに来てくれたらしい。


「なんとも奇妙な縁だったが……今にして思えば、君たちと出会えてよかったよ。困ったことがあれば、私を頼りなさい」

「ありがとうございます」


 その申し出は、俺たちにとっても喜ばしいことだった。



 こうして、俺たちはエクブルームさんに別れを告げると、アイリアを連れてダンジョン農場へと帰還したのだった。

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