第147話 目指す姿

 紆余曲折を経て、俺たちはとうとうハリケーン・ガーリックを手に入れた。


「これでディアーヌ団長にいい報告ができるぞ」


 ホッと胸を撫でおろすと、俺は竜樹の剣を抜く。そして、もらったハリケーン・ガーリックを剣に与えた。


「ほお……噂の通り、剣へ野菜を食べさせるのだな」


 さすがはエクブルームさん。

 護衛の兵士たちはハリケーン・ガーリックを取り込む竜樹の剣に騒然となっているようだが、事前知識のあるエクブルームさんは慌てる様子もなく、むしろ興味深げに眺めていた。


 とりあえず、これで俺のダンジョン農場でもハリケーン・ガーリックを育てることができるようになったぞ。


 俺はそのことをみんなへと報告する。

 すると、その光景を見ていたエクブルームさんは、


「いやいや、たいしたものだよ。その剣さえあれば、世界中の野菜をひとつの農場で育てることができるだろうな」


 そう告げた。

 ……世界中の野菜、か。

 とても魅力的な響きだな。

 もしそれが可能となれば――農夫としては世界最強になれるな。


「それを目指すのも悪くないかもな」

「いいんじゃない。今回のハリケーン・ガーリックみたいに、遠征しなくちゃ手に入れられない野菜もまだまだたくさんあるんだろうし」

「今度は依頼ではなく、自分たちの意思で珍しい野菜を探す旅をしてみましょうよ!」


 キアラとマルティナは、俺の考えを肯定しくれた。

 ――いや、ふたりだけじゃない。

他のみんなも同じみたいだ。


「はっはっはっ! 若いとは素晴らしいな! 君たちのその意欲を見ているだけで若返った気分になるよ!」


 いつも紳士らしい、物静かな感じだったエクブルームさんだが、この時ばかりはテンションが高かった。――と、そんなエクブルームさんの笑顔が急に止まって、緩んでいた表情は突然引き締まる。


「若返る、で思い出したのだが……実際に人を若返らせる野菜があると噂で聞いたことがあるな。それについて、何か情報を知っているか?」

「い、いえ、初めて聞きました」


 ――嘘である。

 本当はその野菜の正体を知っている。

 何せ、この世界を舞台にしたゲームを何年もやり込んできたヘビーユーザーだからな。


 俺の記憶が確かなら、その若返らせる野菜というのは【ファンタジー・ファーム・ストーリー】において入手難易度最大を誇る、まさにレジェンド級の野菜である。


 確か、入手方法は限定イベントだったな。

 しかもリアルイベントだ。

 えぇっと……起用されている声優グループのライブに行くともらえるんだったかな。そのチケットにシリアルコードが記載されていたはず。


 ――って、待てよ。

 その場合、こっちで実際に入手する時はどうすればいいんだ?

 ……ダメだ。

 皆目見当もつかない


「もし、君がその野菜を手に入れたら……言い値で買おう」

「そ、そうですね。――あっ、で、でも、それよりも量産して入手しやすくした方がいいんじゃないですか?」

「量産、か。……その発想は思いつきもしなかったよ」


 再び満面の笑みを浮かべるエクブルームさん。

 さて……とりあえず、その若返りの野菜については調べておくことにして――ディアーヌ団長のもとへと向かいますか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る