第145話 明かされる秘密
ついに姿を現した巨大怪鳥。
――それも気にはなるんだが……もっと気になるのはこの農場だよな。
「かなり長い期間にわたって手入れがなされていないようですわね」
生粋のお嬢様であるシャーロットだが、うちの農場で一緒に働く以前から、学園にある薬草農園にも出入りしていたというだけあり、実に優れた分析だ。
シャーロットの言う通り、改めてじっくりと農場を見ると――現状は荒れ果てているものの、ところどころにこだわりが見え隠れてしている。ハリケーン・ガーリックがある箇所を見ているだけでも、それが十分に伝わってきた。
「きっと……毎日泥だらけになりながら作業をしていたんだろうな」
そうした光景が、容易に想像できる――が、それ以上の情報は何ひとつとして見つけることができなかった。
てっきり、あの巨大怪鳥の巣があって、そこに卵があるから水竜シモーネに睨まれながらも未だにこの場を離れないのだと思っていた。しかし、どうやらそういうわけでもなさそうだ。
「だったら……あの巨大怪鳥はどうしてこの場所にこだわるんだ?」
皆目見当もつかない。
「どうする、ベイル」
「これ以上捜索しても、手がかりは見つかりそうにないがのぅ」
不安そうに見つめるキアラとハノン。
……俺もそう思う。
これからどうするべきか、と悩んでいた時だった。
「お、おい! あそこにいるのはドラゴンじゃないか!?」
「ほ、本当だ!」
「どうしてこんなところにドラゴンがいるんだよ!」
俺たちの背後から、男性数人の声がした。振り返ると、そこには男ばかり七人が立っている。みんな、ドラゴン形態となっているシモーネを見て怖気づいたようだが――ただひとりだけ、真っすぐとシモーネを見つめている人物がいた。
――って、あの人は!
「あっ! あの時の!」
俺より先に声をあげたのはマルティナだった。
……そう。
俺たちの前に現れた男たちの中に――宿屋で部屋を譲り、そして危うくアイリアに狙われるところだった、あの紳士の姿があったのだ。
「おや? また君たちか。 ……どうやら、浅からぬ縁があるらしいな」
相変わらずの柔らかな物腰にホッとする反面、なぜ彼がこのような場に姿を見せているのか……その関連性がまったくの謎だった。
その真相は、本人の口から語られることになる。
「父の農場に、何か用でもあったのかい?」
「ち、父?」
父って……お父さん!?
ということは、ここは――
「この畑は……あなたの父上が?」
「そうだ」
紳士曰く、ここを管理していた父親は数ヶ月前から体調を崩し、嫌がるところを半ば強引に近くの町の診療所へと運びだして治療を受けさせていた。しかし、いよいよ死期が迫ってきたという頃に、彼は最後の願いとしてこの農場へ戻ることを希望したという。
そこで、紳士やその配下の者たちが協力をして再びこの地へと戻らせたが――残念なことに、一週間ほど前に亡くなったという。
「ここへ来たのは、父の遺品整理という意味もあるかな」
「そ、そうだったんですね」
「じゃ、じゃあ、あの怪鳥は……」
キアラの言葉を受けて、紳士は困ったように苦笑いを浮かべる。
「あの子は父の友だちなのさ。きっと、生前の父にここを頼むとでも言われ、それを守ろうとしているのだろう」
「そんな……」
それを耳にした直後、シモーネはドラゴン形態から人間形態へと戻った。
……さすがに分かっているな。
「きちんと伝えなくては、な」
そう呟き、紳士は畑の近くへ舞い降りた怪鳥へと近づいていった。
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