第143話 てっぺんへ


 ドラゴン形態のシモーネに乗り、上空から崖の頂上へたどり着くことができた俺たち。

 まあ、こういうルートは普通やろうと思ってもできないからなぁ。大型鳥類の使い魔でもいれば別なんだろうけど。


 それはさておき、そこで俺たちは信じられない光景を目の当たりにする。


「これって……畑?」


 目の前にあったのは、明らかに何者かの手が加えられた畑であった。

 近くには生活拠点としているのか、小屋まである。


 人が生活をしていくには不便極まりないこの嵐の谷で、一体誰が暮らしているというのだろうか。その真相を確かめるべく、小屋へ向かおうとした――その時、


「っ!? ちょ、ちょっと待って! あそこの畑にあるのって、ハリケーン・ガーリックじゃない!?」

「えっ!?」

 

 キアラの言葉を受けて、俺たちの視線は一気に畑へと向けられる。最初見た時は雑草が生え散らかっており、手入れがされていなかった。しかし、キアラが発見した畑の一部はきちんと整えられていて、そこには成長途中と思われる野菜があった。

 その野菜――確かに、魔法兵団長のディアーヌさんからもらったハリケーン・ガーリックの特徴とよく似ていた。

 ただ、もしそうなら情報に誤りがある。


「ど、どういうことでしょうか?」

「あのディアーヌという魔法兵団長の話では、ハリケーン・ガーリックは自生しておるとのことだったじゃが……」


 マルティナとハノンは気づいたようだ。

 魔法兵団だけじゃなく、この嵐の谷に何度か足を運んでいるアイリアでさえ、ハリケーン・ガーリック=自生というのが常識だと思っていたからなぁ。これはかなりの衝撃的事実だ。


 と、なると、ますますあの小屋に住む人物が気になるな。

 俺たちは再びその場所へ向けて進む。


 そして、住人に話を聞こうと扉をノックするが、


「あれ?」


 返事がない。

 留守なのか?

 なんとなく、扉に手をかけてみると、


「うん? 開いてる……」


 鍵はかかっていなかった。


「えっ? 施錠されていないんですの? ……ベイルさん?」

「ベイル……君にそんな特技があったなんて驚きだよ」

「凄腕の解錠士アンロッカーってわけじゃあるまいし……最初から鍵はかかってなかったみたいだ」


 シャーロットとアイリアから疑いの眼差しを向けられつつ、俺は扉を開けて小屋の中を確認してみた。すると、確かにそこに誰もいなかったのだが――


「妙だな……生活している様子がまるでない」


 小屋の中は埃がたまっていて、少なくとも一ヶ月以上は人の出入りがないと思われる。

 だとしたら、この小屋の主は今どこにいるのだろうか。そして、人のいなくなったはずの畑で、なぜハリケーン・ガーリックが育てられているのか。ここへ来て、一気に新たな謎が増えたぞ……。


「どういうことなんだ……」


 まったくもって予想外の出来事に困惑しつつ、小屋の外へ出たと同時に、突風が俺たちを襲う。


「わっ!?」


 身をかがめ、吹き荒れる風から耐える俺たち――その風の正体は、


「キイイイイイイッ!」


 噂の巨大怪鳥だった。

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