第139話 嵐の谷の朝

 夕食を終えると、体力の回復を目指して早めに就寝することにした。

 とはいえ、いつモンスターが襲ってくるか分からないため、キアラとシャーロットによって結界魔法が張られた。これで何かが近づいてきてもすぐに分かるし、ある程度の攻撃からは身を守れる。


 そうした予防に加えて、俺とマルティナはいつでも戦闘できるように武器を手元に置いて寝ることに。


 ……って、ここでも一緒に寝るんだよなぁ。

 もうだんだん抵抗が薄れていくよ。


「さあさあ、アイリアちゃんも一緒に寝ましょう」

「う、うん」


 シモーネに導かれて、アイリアはコテンと横になる。

 うちのメンバーの中では、シモーネと一番波長が合うようだな。それ以外にも、魔法使いを目指しているため、キアラやシャーロットとはいろいろと話をしていた。さっき、ふたりが結界魔法を使う時も、近くで瞳をキラキラと輝かせながら眺めていたし。

 

 本当に魔法が好きなんだなぁ。

 明らかに慣れた感じはしなかったのに、拘束魔法で俺を捕えようとしたくらいだものなぁ。ちょっと情熱があらぬ方向へ行ってしまい、危うく罪を犯すところだったけど。


 ともかく、俺たちは警戒心を保ちながら、眠ることにしたのだった。



 翌朝。


「うーん……」


 一番に目が覚めると、静かにテントを出て体を伸ばす。

 いつモンスターが襲ってきても対処できるように、横にならず座ったまま寝ていたせいもあってか、体が固まっているように感じる。それを解そうと軽くストレッチをしていたら、


「あら、早いじゃない」


 テントから出てきたのはキアラだった。

 普段は長い紫の髪をツインテールにまとめているが、寝る時はいつも三つ編みにしているため、なんだかちょっと新鮮に映るな。


「おはよう、キアラ」

「おはよ。どう? ちゃんと眠れた?」


 俺が緊急事態に備えて常に気を張っていたことを気配から感じ取っていたのか、キアラが心配そうに聞いてくる。


「ぐっすり眠れた――とは言い難いけど、まったく眠れなかったというわけでもないよ。これもキアラとシャーロットが頑張って結界魔法を張ってくれたおかげかな」

「それほどでもありませんわ!」


 俺たちの会話に割って入ったのは、テントから出てきたシャーロットだった。どうやら三番目に起きたのは彼女らしい。


「このわたくしの完璧な結界魔法の前では、いかなる凶悪なモンスターであっても手が出せませんもの!」

「よく言うわよ……『もしみなさんが襲われてしまったらどうしましょう』って泣きそうな顔で言ってきたくせに」

「それはそっと心の中に秘めておくべき秘密ですわ!」


 思わぬ暴露を食らって大慌てのシャーロット。 

 その時の大声で、他のみんなも起きてきた。


「なんじゃあ……うるさいのぅ」

「おはようございますぅ……」


 眠そうにまぶたをこすりながら出てきたのはハノンとマルティナ――って、あれ? シモーネとアイリアの姿が見えないぞ?


「まだ寝ているのかな?」


 気になってテント内を調べて見ると、


「おっと」


 シモーネとアイリアは抱き合うようにして眠っていた。

 その微笑ましい光景に声をかけるなどという野暮なマネはせず、俺たちはふたりが自然と起きてくるまで、静かに朝食の準備を進めておくことにしようと決め、それぞれ準備に取りかかるのだった。

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