第138話 道半ば

 ハリケーン・ガーリックを求めて、俺たちは暴風吹き荒れる嵐の谷をなんとか攻略していき、とうとう目的地である最奥部までやってきた。


 ――ただ、ここから先がなかなかに険しい道のりだった。


 警戒していたモンスターこそ現れなかったが、それを抜きにしてもこの坂道をのぼっていくのはキツイ。


「ど、どこまで続いているのよ、この坂……」


 思わず弱音が口からこぼれ落ちるキアラ。

 竜人族のシモーネやアルラウネのハノン、そしてこの場に何度か来ているというアイリアは体力的に問題なさそうだが、他にもマルティナやシャーロット辺りは表情に疲労の色がうかがえる。


「そろそろ休憩するポイントを探した方がよさそうだな」


 どれほど歩き続けたのか――正確に時間を測っているわけじゃないから詳しくは分からないが、辺りは徐々にオレンジ色へと染まりつつある。


 当初の予定通り、ここで一泊して翌日頂上を目指そう。

 しばらく進んでいると、無限に続くかと思われた坂道の途中に広々としたスペースを発見。傾斜もないし、今日はここをキャンプ地としよう。


「よし。それじゃあテントを張るか」

「私は夕食の用意に取りかかりますね」

「ああ、よろしく頼むよ、マルティナ」

「わたくしも手伝いますわ!」


 こうして、マルティナとシャーロットは食事係としての仕事を開始。昼間は軽めの携帯食だったけど、一夜を過ごすのなら体力回復の意味も込めてガッツリしたものを食べなくちゃな。

残ったメンツは、テントの用意などを進めていくこととなった。


「くっ……疲労困憊だというのにテントなんて……」

「まあ、そういうなよ」

「ねぇ、竜樹の剣の力で何とかならない? ほら、地底湖へ落ちたあたしを助けた時みたいに、植物の力を借りて」

「あぁ……」


 できないこともないが……それについてはあまり賛同できない。なぜなら、


「この先に強いモンスターがいるかもしれないから、魔力はできる限り温存させておきたいんだ」


もしかしたら、相手は俺たちの想像を遥かに超えた強さを有しているかもしれない。キアラやシャーロットも魔法使いとしては上位クラスに入るだろうし、水竜シモーネもいるのだが……それでも、油断はできないからな。さらに、


「その考えにはワシも賛成じゃ」

「ぐっ……」

 

 ハノンの援護が決定打であった。


「まあ、確かにそうよね。……仕方ない! 回復魔法でコンディションを整えおきましょう」

「ありがとう、キアラ」


 納得してくれたようで何より。

 

「それにしても……」


 俺はテントの設置を急ぎながら、その場所から見える景色を眺めていた。

 もうこんなに上まで来ていたのか……歩いている時は周りの景色にあまり変化がなかったから実感なかったけど、本当に結構な距離を歩いてきたんだな。移動中はみんなでアイリアの話を聞いていたから、時間経過もあまり気にならなかったし。


 そんなことを考えているうちに、テントが完成。

 同時に、食事の準備も整ったようだ。


「さあ、みんなでご飯にしよう」


 こうして、嵐の谷での賑やかなディナーが始まった。

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