第135話 早朝にひと騒動

「うあ……?」


 朝。

 何か、体が思うように動かない。それになんだか重量感があるような――


「っ!?」


 目の前の光景に、思わず息が詰まった。

 キアラ、マルティナ、ハノン、シモーネ、シャーロット、そしてアイリアの六人と同じベッドで寝ている。どこを向いても、誰かしらの顔が目前にあるのだ。

 幸い(?)にもまだ誰も起きてはいないようだったので、極力体に接触しないようにベッドを抜け出る。

 危ない……昨日はいろいろあって疲れていたからすんなり寝られることができたけど、今日もこの調子だと一睡もできそうにないな。


 とりあえず、先に起きてササッと着替えを済ませると、ちょうどそのタイミングを見計らったようにまずマルティナが起床。続いてシモーネ、ハノン、シャーロット、アイリアと続き、一番遅かったのはキアラだった。


「みんな起きるの早くない!?」

「あなたが寝坊助なだけですわ」


 シャーロットに一蹴されるキアラ。

 まあ、ツリーハウスでも起きてくるのは遅い方だから、至っていつも通りの光景といえばその通りなんだけど。


 全員が起床したところで、身支度を開始。

 宿屋で朝食をとってから向かったのは、アイリアに危険な依頼をしてきたという男三人と会うためだ。


 成果を報告するために待ち合わせをしていた場所は、都合の良いことにひと目にはつきにくい町の外れにある廃墟と化した教会の前だった。

 そこにはすでに男三人が俺たちを待ち構えている。


「あん? おい、アイリア。誰なんだよ、そいつらは。おまえは確か単独で動いているんじゃなかったのか?」

「そ、それは――」

「俺たちは彼女の仲間だ」


 男たちに向かってそう言い放つ。

 俺の言葉を耳にした男たちは不思議そうに顔を見合わせた後、不敵な笑みを浮かべながら近づいてくる。きっと、こちらのメンツが十代半ばでしかも女の子ばかりという編制だから下に見ているのだろう。


「威勢がいいな、兄ちゃんよ」


 ひとりの男が一歩前に出る。

 恐らく、こいつがリーダーなのだろう。その男は腰に携えた剣を鞘から抜くと、威嚇するようにこちらへと向けた。


「どういった事情にそいつに加担したが知らねぇが……運が悪かったな。周りの女たちを追いてさっさと失せな」


 手下と思われるふたりの男も、下卑た笑みを浮かべてこちらを見ている。


「俺はあのオレンジの髪の女からいただくぜ」

「なら、俺はあの金髪の女だ」


 最初の標的となったマルティナとシャーロット。

 ふたりは男たちの視線に気がつくと、ゾゾゾッと体を震わせていた。

 当然ながら、ふたりだけじゃなく、こちらのメンバーには誰ひとりとして指一本触れさせない。


 そのためにも、


「なら……俺はこれで」


 竜樹の剣を抜いて、男たちと対峙する――と、


「「「ぶっははははははは!!」」」


 男たちは一斉に笑い始めた。


「な、なんだ、その武器は!」

「木でできたおもちゃかよ!」

「もっとマシな武器は買えなかったのか?」


 完全にバカにしているな……今に後悔するぞ。

 俺は手にした竜樹の剣を地面へと突き刺す。

 すると、地中を無数の根が走り回り、それらはやがて男たちの足元までやってくると、一斉に地上へと姿を見せた。


「な、なんだ!?」


 気づいた時にはもう遅い。

 竜樹の剣によって生みだされた根は、あっという間に男たちをがんじがらめにして動けなくしてしまう。


「捕獲完了」

「何しやがんだ、てめぇ!」

「騎士団へ差し出すために身柄を拘束しただけだよ」

「「「き、騎士団!?」」」


 男たちの顔が一気に青ざめる。

 その後、必死に抵抗を試みたが結局意味はなく、キアラの使い魔によって事態を把握した騎士団によって男たちは連行されていった。話を聞くところによると、他にも余罪が山ほどあるらしい。


「あ、ありがとう、助かったよ」


 助かったと実感したアイリアは、思わずその場へと座り込む。



 ――でも、本題はここからなんだよなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る