第130話 一夜限りの……
一難去ってまた一難――と、言うべきか。
通りすがりの紳士(?)によって、俺たち六人はこの高級宿屋の同じ部屋で一夜を明かすこととなった。
さすがにもっとも高い部屋というだけあり、場所は宿屋の最上階。しかも、最上階には宿泊できる部屋がここしかないため、フロア全体を貸し切りにしているも同然だった。
「わあっ! 凄ぉい!」
部屋へ入って早々、マルティナが興奮しながら窓へと走る。
「景色も最高ですよ!」
「あら、本当ですわね」
ついていったシャーロットも、窓から見える景色に釘付けとなっている。ここは少し小高い場所にあるから、町の様子が一望できるんだよな。
「さすがに高級とうたうだけあって、内装のつくりも豪華じゃな」
「本当ですねぇ」
ハノンとシモーネのふたりは、部屋の中をじっくりと見て回りながらいろいろとチェックしていた。いつもはここよりもずっと安い宿屋だから物珍しいのだろう。
と、ここでひとり足りないことに気づく。
「あれ?」
キアラだ。
キアラの姿がどこにも見えない。
どこへ行ったのかと捜していたら、隣にある部屋にその姿を発見。どうやら、そこは寝室のようだった。
「へぇ、こっちは寝室なのか~」
「っ!?」
俺が部屋へ入ると、キアラの方がビクッと跳ねた。
何をそんなに驚いているのかと思ったら――
「あっ」
完全に忘れていた。
この部屋は十人で止まっても余裕があるくらいとても広い構造となっているのだが、ひとつだけとんでもない欠陥というか、余計な配慮がなされていた。
それは……ベッドがひとつしかないということ。
もちろん、大勢での宿泊を想定しているため、たったひとつしかないベッドはとてつもなく大きい――が、六人でこのベッドを使うとなったら、さすがに狭いだろう。相当密着しないといけないな。
恐らく、キアラとしてはあの場のノリと勢いで一緒の部屋での寝泊まりを許可したのだろうが……こうして現実を形にして見せられたことで意識してしまったのか。
……これ、他のメンバーにも同じ現象が起きそうな気がする。
マルティナとハノンは意外と大丈夫そう。
シモーネは死ぬほど恥ずかしがるだろうなぁ。
シャーロットは――本人よりむしろお兄さんの方が大変そうだ。
しかし、そのお兄さんであるローレンスさんは、現在またしても急な遠征のため移動中なのだそう。しかも、騎士団が所有する飛行艇に乗り込んで他国へと向かうらしい。その目的も気になるところだが、今はとりあえずそのことは置いておこう。
「さて……どうしたものか」
みんながこの部屋の存在に気づいてやってきたらどうなるか。
……最悪、俺は床で寝ればいいかな。
◇◇◇
同時刻。
騎士団が所有する飛行艇内部にて。
「ど、どうされました、ローレンス殿!? 今にも死にそうな顔色ですよ!?」
「分からん。……だが、今すぐこの飛行艇から飛び降りて、妹に会いにいかなければいけない気がする」
「こんな上空から飛び降りたら死にますよ!?」
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