第127話 激闘の結末

 思わぬところで始まった、女子たちによる激しい戦い。

 一進一退の攻防――その熱量は、やがて宿屋中を包み込み、気がつけば辺りは野次馬でいっぱいに。


「「「「「あいこで――しょっ!」」」」」


 全員が手を出した瞬間、野次馬たちから歓声が沸く。

 またあいこ……これで二十七回目だぞ。


 途中で、「ふたりずつで勝負していく勝ち抜き方式がいいんじゃない?」と提案しようとしたのだが、見知らぬおじさんに「そんな野暮は言いっこなしだぜ?」と止められて今の状況を見守り続けている。


 マルティナとキアラのふたりも、激しい戦いの連続で息が上がってきているように見えるが……君ら、ダンジョンでの探索から帰ってきたよりも疲れてない?


 その後もあいこが続き、ちょうど五十戦目を終えた時だった。


「もういい!」


 野次馬のひとりが、突然叫ぶ。

 名前は分からないけど、きちんとした身なりからしてどこかの貴族だろう。その人は野次馬をかきわけて俺たちの前まで来ると、一礼してから語り始めた。


「いいものを見させていただいた。そのお礼と言ってはなんだが――今夜私が宿泊する予定のウルトラスウィートルームを君たちに提供したい」

「えっ!?」


 ウ、ウルトラスウィートルームって……この宿屋で一番値段の高い部屋じゃないか!


「あそこは最大十人まで泊まれる。仲良く一夜を過ごすといい。私たちはあなた方が泊まる予定の部屋で十分だ」

「い、いや、でも――」


 さすがに申し訳ないと思って断ろうとしたが、その男性貴族は俺の肩へそっと手を添えると、


「男を見せなさい」


 と耳打ちをしてきた。


「とはいえ、あの様子ではまだ誰とも一線は越えていないようだ。……その紳士的振る舞いは賞賛に値するが、あまり女性を待たせるものではないぞ」

「は、はあ……」


 ……なんだか、凄い誤解を招いている気がしないでもないが、せっかくのご厚意を無下にするのも気が引ける。


「凄いわよ、ベイル!」

「とっても広いですぅ!」

「お風呂までついているんですね!」

「食事もここまで運んでくれるのか」

「確かに……こっちの方がわたくしに相応しい部屋のような気がしますわ!」


 すでに五人は泊まる気満々らしく、受付で部屋の内装をチェックしていた。

 まあ、誰かとふたりっきりで同じ部屋に泊まるよりかは健全かも。


「あっ、ちなみにこちらのお部屋ですが、ベッドはひとつしかありませんので」

「なんで!?」


 受付嬢からもたらされた情報に、俺は思わずツッコミを入れてしまう。

 最後の最後で致命的な欠陥が見つかった――が、さすがにここからの変更は難しいだろうし、みんなはそれで大丈夫だと半ばゴリ押しの状態で宿泊が決定した。


「さあ! お部屋も決まったことですし、情報収集に行きましょう!」

「「「「おおーっ!」」」」


 マルティナのひと言に、全員が声を合わせる。

 元気なのはいいことだけど……本当に大丈夫かなぁ。


「それで、最初はどこへ行くの?」


 不安げにしていると、キアラが顔を覗き込みながら言う。

 ……そうだ。

 気持ちを切り替えて、仕事に集中しよう。

 今回の案件はかなり厄介だからな。

 気を引き締めていかないと。


「とりあえず、冒険者ギルドへ行こうと思っている。あそこなら、嵐の谷に関するクエストもあるだろうし」

「確かに、それが一番手っ取り早い方法ね」

「では、ギルドへ行くとするかのぅ」


 こうして、宿屋の部屋割りでひと悶着はあったものの、改めて嵐の谷にあるとされるハリケーン・ガーリックを手に入れるための情報収集がようやく始まった。

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