第123話 ディアーヌ兵団長

 翌朝。

 宿屋のロビーに騎士団からの使いだというふたりの若い騎士がやってきた。


「やあ、おはよう」

「昨日はよく眠れたか?」

「! あなたたちは――」

 

 使いとしてやってきたのは、昨日、騎士団食堂の件で一緒になった騎士たちだった。

 茶髪に少し垂れ下がった目元が特徴的なスペンサーさんと、スキンヘッドに鋭く力強い眼光を飛ばすモリスさんのふたりだ。

 レジナルド騎士団長の命によって俺たちのもとを訪れたふたりは、魔法兵団の団長が俺たちとの面会を希望していると語った。


「魔法兵団の団長が……」


 その人間性については、レジナルド騎士団長が少し話を聞いている。

 なんでも、兵団長という立場でありながら、人とあまり接したがらない引きこもり体質であるらしい。ただ、魔法の腕は超一流であり、それこそ史上最高の実力者とまで言われているとのこと。


「とはいえ、御本人は否定されているんだ」

「まあ、世界は広いからな。あれだけの実力を持っているディアーヌ様でも、絶対に勝てない心の師と尊敬している魔女がいるらしいし」

「そ、そうなんですか?」

「八人いると言われる、この世界を救った英雄のひとりだよ。名前はえっと……なんていったかな?」

「ロ、ロー……ダメだ。思い出せない」


 ふたりはしばらくその魔女の名前を思い出そうとしていたが、結局出ることなく朝の鍛錬に参加するため戻っていった。


 気を取り直して、俺たちはハリケーン・ガーリックをゲットする前に魔法兵団の詰め所へと向かい、そのディアーヌ団長に会って話をすることにした。

 その際、こちらにとってプラスになる材料が発覚する。


「あっ、ディアーヌ団長なら会ったことあるわ」


 キアラのひと言で状況が一変。


「えっ? 会ったことあるのか?」

「えぇ。……でも、その時はまだ副団長って立場だったはずだから、きっとあれから出世したのね」


 どうやら、キアラはディアーヌ団長と面識があるようだ。キアラ曰く、物静かで大人しい人だという印象が強く残っている一方、大人だらけのパーティーで退屈そうにしている自分を見かね、いろいろと魔法を見せてくれたという世話好きな一面もあったという。


「思い出すと……あの時から魔法に強い関心を持ったのかも」


 幼い頃の記憶に浸るキアラ。

 そんな姿を見ていると、ディアーヌ団長の人柄が透けて見えてきた。


「レジナルド騎士団長はちょっと心配しているような素振りを見せていたけど……その話を聞く限りでは、とてもいい人のように思えるけど」

「あら、そうなの? あたしはディアーヌ団長にいい思い出しかないし、お母様とも親しかったから」

「スラフィンさんと?」


 あのスラフィンさんが認めたとなったら、確かに大丈夫そうだ。

 

「一体どんな人なんでしょうか」

「こ、怖い人じゃないといいですけどぉ……」

「ドラゴン形態のお主より怖い人など存在せんと思うがのぅ」


 他の三人も、その話を知って安堵したようだ。

 ……仮にも兵団のトップなわけだから、そこまで捻くれた人間性を持った女性を任命するとは思えない――が、それでもレジナルド騎士団長の懸念も無視はできないと考えていた。


 果たして、ディアーヌ魔法兵団長とは……会うのが楽しみだ。

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