第121話 依頼
騎士団の食堂改善について、根本的な問題解決についてはまだまだこれから取りかかっていくが、その足掛かりとしては成功したのではないかと思う。
想定外の事態が起きて、マルティナとフランクさんの料理対決なんて流れになったけれど、そのおかげ(?)でマルティナの実力はあっという間に騎士団内へ広まっていったらしい。
――で、俺たちはローレンスさんの用意してくれた王都にある宿屋で一泊することとなったのだが、その前に俺は城へと呼びだされた。
……まあ、呼びだした相手については見当がついている。
俺の予想を裏付けるように、案内役のローレンスさんが訪れたのは――レジナルド騎士団長の執務室であった。
「失礼します」
「おう。入ってくれ」
俺はローレンスさんに続いて執務室へと入る。
「やあ、待っていたよ」
イスに腰かけていたレジナルド騎士団長は立ち上がり、俺のもとへやってくると手を差し出した。それを握り、固い握手を交わしたところで早速今日の話題を振られる。
「すでに別の者から報告をもらっている。フランクさんを説得し、騎士団食堂の改善は順調に進みそうだな」
「ほとんどマルティナの成果ですけど」
「そう言うな。そもそも君がいなければ成立しない話だったわけだしな。――っと、そうそう。今日呼んだのはそのこともあるが……別件で、農場に関する話もあるんだ」
「農場の?」
どうやら、それが本日のメインテーマらしい。
俺たち三人は場所を室内にあった丸テーブルへと移し、向かい合うように座った。
「単刀直入に聞くが――君のところでハリケーン・ガーリックの育成は可能か?」
「ハリケーン・ガーリック?」
その名前には聞き覚えがあった。
もちろん、それは【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中で、だ。
風属性の魔力を向上させる効果を持つ野菜だが、自生している場所がとんでもないところなので、ゲーム内でも入手難易度は高いことで有名だ。ゲームをプレイして、中級者クラスになったら絶対に手をつけておきたいのだが、まず間違いなく、初心者には手に負えない。
そんなハリケーン・ガーリックをレジナルドさんは求めているらしい。
「うちにはまだありませんが……必要なのですか?」
「魔法兵団の方の新入りに、風属性が多いらしくてな。なんとか強化をしていきたいと考えているのだが……」
なるほど。
風属性の魔法使いからすれば、ハリケーン・ガーリックは喉から手が出るほど欲しいものだろう。
「……分かりました。こちらでも入手できないかどうか、いろいろと探ってみます」
「おぉ! 頼めるか?」
「はい。ただ、確約はできませんが……」
「構わないよ。――それと、あともうひとつ。これは依頼ではなく忠告というか、注意喚起みたいなものだ」
「注意喚起……ですか?」
なんだか不穏な表現だな。
「以前、君たちが遭遇した霧の魔女が、再び動き出しているらしい」
「霧の魔女が!?」
世界屈指の魔法使いである霧の魔女は、学園の薬草全滅にかかわっていた人物だ。その狙いは不明のままだが、クレンツ王国が隣国のフォレスター王国との間で同盟を結ぼうとしていることに対し、妨害工作をしているように思えた。
「ヤツは君たちの顔を知っている。十分気をつけてくれ」
「分かりました」
再び動きを見せ始めた霧の魔女……不気味だな。
それはそうと、ハリケーン・ガーリックの件については一度グレゴリーさんとも相談してみよう。
何かいいヒントをくれるかもしれないしな。
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