第120話 マルティナの弟子?

 最初から勝敗の行方は明白だった、マルティナとフランクさんの料理対決。

 若い騎士たちへの思いやりに満ちたマルティナの料理は、彼らの心身に強く響いたようで、おかわりが続出。その現状を目の当たりにしたフランクさんは敗北を認め、さらにはマルティナへ弟子入りを申し出たのだ。


 ちょうどその時、


「一体何の騒ぎだ?」


 同じく鍛錬を終えたローレンスさんが食堂へとやってきた。


「ローレンスさん! ちょうどいいところに!」

「む? シャーロットとその仲間たちか」


 相変わらずシャーロットしか視界にないな、この人は。


「依頼された騎士団食堂の改善に来たんじゃないですか」

「おっと、そうだったな。――おっ? そこにあるが例の料理か?」

「は、はい。私が作りました」


 おずおずと、マルティナが手をあげる。

 それを知ったローレンスさんは、早速料理に手をつけた。


「ほぉ……うまいな」


 味の感想は随分と素直なものだった。


「身体づくりに欠かせない肉だが、厳しい鍛錬に慣れていない若い騎士たちでは、それを終えたあとに食べるのはなかなか厳しいものがある。しかし、このソースと野菜がそれを手助けてしてくれる。工夫と愛情に満ちた素晴らしい料理だ」

「あ、ありがとうございます」


 至ってまともな評価。――さっきまでの温度差が凄いな。

料理を味わったローレンスさんの視線は、自然とフランクさんへと向けられた。


「フランクさん……」

「みなまで言うな、ローレンス。……俺はこの場に相応しくないようだ」


 ローレンスさんや騎士団長のレジナルドさんもかつて世話になったというベテラン騎士だったフランクさん。ふたりだけでなく、騎士団の関係者の多くは彼に感謝しているという。


 その恩義から、引退後に本人が希望する食堂の料理人となったが……それがこのような結果を招くとは予想外だったのだろう。恩義がある分、直接その件を伝えるのはためらわれるだろうし。


 だから、あの島でマルティナの料理の腕を見抜いたローレンスさんは俺たちに引導を渡す役を託したのだ。


 俺たちにその真意を隠していたのも、マルティナがプレッシャーを抱えないようにするための配慮だった。きっと、俺たちが食堂の改善に乗りだせば、フランクさんとぶつかり合うと睨んだのだろう。


 すべてはローレンスさんの狙い通りに進行していったわけだ。



 弟子入りの件はお流れとなったが、代わりにマルティナの考えたレシピをフランクさんに渡した。

 それだけでなく、料理人としての心構えから基礎的な技術を定期的に教えることに。これは食材である野菜を届けた際に実施される予定だ。


 話を進めていくと、フランクさんはマルティナの父親であるヒューゴさんを尊敬していることが発覚。


 フランクさんのマルティナへのリスペクトはさらに熱烈なものとなっていき、歯止めがきかなくなりつつあった。


 なんとか引きはがし、翌日改めて食堂を訪れようとしたのだが、


「ちょっと待ってくれ」


 ローレンスさんに呼び止められた。


「今から例のダンジョンに戻るのは大変だろう。今日は王都にある宿屋に人数分の部屋を確保させておいた。そこで休むといい。もちろん、代金はこちらが払っておく」

「い、いいんですか?」

「せめてもの礼だ」


 ありがたい配慮だ。――と、思ったら、


「ただし、ベイル・オルランド……君にはこれから俺とともに城へ来てもらう」

「……えっ?」


 な、なんだか嫌な予感がするぞ……。

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