第119話 見え透いた決着
さて、マルティナとフランクさんによる料理対決だが――果たしてこれを料理対決と言っていいのだろうか。
疑問の根底にあるのはフランクさんの提供した料理にある。
……ていうか、これを料理と言っていいのか、そこからのスタートだった。
何せ、皿の上には焼かれた肉があるのみ。
食欲を刺激するような香りを漂わせるソースがあるわけでもないし、野菜のソテーを添えたりという工夫もない。肉のみ。肉オンリーなのだ。
良い言い方をすれば、お手本のような「男の料理」だが……実際にこれが好評なのかどうか――結果はこの後ハッキリする。
「どうやら、若造たちが帰ってきたようだな」
フランクさんの言う通り、キッチンの外から声がしてきた。
窓の外には、今年入ったばかりのルーキー騎士たちが泥だらけになり、疲弊しきった顔つきで歩いてくる。話によると、この後に風呂へ入って、それから夕食となるらしい。
つまり、決戦の舞台はもうそこまで迫っているということだ。
風呂上がりの若い騎士たちが食堂へと入ってきた。
そこには、誰が作ったのかは伏せた状態でふたつの料理を並べてある。どちらにより人が集まるのかで勝敗が決まるとのことだが、
「おっ?」
「むっ?」
「えっ?」
食堂に入ってきた騎士たちの顔色が変わる。
そして、多くの騎士たちが集まったのは――もちろん、マルティナの料理だった。
「何ぃっ!?」
キッチンから騎士たちの様子をうかがっていたフランクさんが叫ぶ。――いや、そのリアクションにこっちが「何ぃっ!?」って言いたい気分だよ。
マルティナの料理は、フランクさんと同じく肉がメインとなっている。
叩いて柔らかくしてから、刻んだ野菜と一緒に炒め、うちの農場で収穫された果物を使ったソースがかけられている。さらに、こちらもうちの農場でとれた卵を使ってスープを作り、パンを添えて完成。素人目から見ても、バランスの取れたいい食事だと思う。
これに、若い騎士たちが群がらないわけがない。
飛びつくように食べ始め、おかわりコールが食堂内に轟いた。
――と、いうわけで、圧倒的な大差を持って勝利したマルティナであったが、その横で打ちひしがれているフランクさんを見ると……まあ、仕方がないこととはいえ、ちょっと可哀想だな。
そこへ、マルティナが近づいていく。
「あなたが騎士たちに栄養をつけさせたいからと、食材にお肉を使ったというところは何も問題ないと思います」
それについては同意だ。
実際、マルティナも肉メインの料理だったわけだし。
「ですが、食べる相手が置かれた状況を把握することも大事だと思うんです」
「じょ、状況?」
「厳しい鍛錬を終えて戻ってきたばかりの若い騎士たちに、あの量と味は重く感じられるのではないでしょうか」
「!?」
刃物のように鋭かったフランクさんの目が大きく見開かれる。目から鱗が落ちるって表現は、きっとああいう表情の時に使うんだろうな。
「例えばこのお肉も、こうしてソースをかければ――」
マルティナはそう言って、自分が作ったフルーツソースをフランクさんの焼いた肉へとかける。それを食べたフランクさんは、
「!? なんたるうまさだぁ!?」
絶叫した。
そして、
「感服した! 師匠と呼ばせてくれ!」
この変わり身である。
まあ、紆余曲折あったけど、とりあえず騎士団食堂の改善に関する諸問題はこれで片付いたとみていいかな?
あとは、おかわり待ちをしている若い騎士たちからも話を聞いて、より彼らが満足できる料理を提供できるようにしていかなくては。
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