第118話 料理対決の行方
突如として始まった、現騎士団食堂料理長フランクさんとマルティナの料理対決。
勝敗のつけ方は、あと二時間ほどで合同鍛錬から戻ってくる新入りたちに向けた夕食を作り、評判の良かった方を勝ちとすることで決まった。俺たちが判定をすると私情が入るだろうし、それは仕方ないだろう。
……ただ、
「ねぇ、ベイルはどっちが勝つと思う?」
「キアラさん、まさかマルティナさんが負けるとでも?」
「いやぁ、そりゃ絶対にマルティナが勝つだろうけどさぁ」
キアラの気持ちは分からないでもない。
レジナルド騎士団長やローレンスさんから苦言を呈され、同業者であるヒューゴさんからも不安視されていた。
ふたりが調理をしている最中、俺は若い騎士たちからフランクさんについていろいろと話を聞く。
どうやら、彼は年齢を理由に昨年限りで騎士団を引退し、かねてより関心のあった料理の道へと進んだ。長年、レジナルド騎士団長を含む多くの騎士たちが世話になり、そして慕われていた彼の第二の人生を応援すべく、この食堂を任せたらしいのだが……ちょっと早計だったみたいだな。
やはり昔の恩義もあるため、直接交代してくれとは言いづらいものがあったのかなと想像できる。しかし、だからといってこのままにはしておけない。そこで、俺たちに――いや、この場合はマルティナへ白羽の矢が立ったのだろう。
そのマルティナは相変わらず凄まじい手際の良さで調理を進めていく。
一方、フランクさんは動きだす素振りがない。
「な、なんで動かないのかしら……」
「まったく予想できんのぅ」
「は、はいぃ……」
シャーロット、ハノン、シモーネの三人はその動きを不思議そうに眺めている。ただひとり、キアラだけは、「もうあきらめたんじゃない?」と予想しているが……俺としてもそれは的外れな見解ではないと思う。それほどまでに、今のマルティナは凄いのだ。まるでダンスをするがごとく華麗に食材をさばいている。
それにしたって、あそこまで不動だとかえって不気味さがあるな。
起死回生の策でもあるのだろうか。
残り時間がわずかとなった時、
「――そろそろか」
ついにフランクさんが動きだす。
マルティナの方はすでに調理のほとんどを終えているのだが……今から作り始めて間に合うのだろうか。
一応、食材に関しては自由ということなので、公平性を期すためにフランクさんもうちの野菜は使える。だが、野菜には目もくれず、彼が保冷庫の中から取りだしたのは――とてつもなくデカい肉の塊だった。
注目されるのは、その調理方法。
一体、あれを使ってどんな料理を作るというのか。
「ふっふっふっ! 見ているがいい!」
自信満々のフランクさんは肉を大きめのサイズにカットすると、それをフライパンで焼き始めた。ある程度の焼き目がつくと、それを皿の上に置く。そして、
「完成だ!」
「「「「「えっ!?」」」」」
これにはさすがに驚きの声が漏れる。
ただ肉を焼いただけ。
ソースがあるわけではない。
体が資本となる騎士団のメンバーとしては確かに望ましい食材ではあるけれど……さすがにそのまま出すのはどうなのか。
「肉だ。肉はすべてを解決する……!」
本人的には会心の出来らしい。
しかしこれは……ジャッジする必要ないかもしれないなぁ。
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