第117話 料理長、襲来
騎士団食堂の料理改善――を始める前に、俺たちはまずその改善において、食材に匹敵するくらい大事なキッチンの整理から始めることにした。
国を守る騎士たちの胃袋を預かる場所……のはずだが、どうにもお粗末というかなんというか……もうちょっとくらい普段から整理整頓できないものか。
ただでさえ、衛生管理を徹底しなければならない食材を管理する場所なのだから、徹底しておくべきだと思う。その点、ヒューゴさんのキッチンは完璧だったな。
とにかく、手分けしてキッチンの掃除と整理から始めた俺たち。
するとそこへ、
「こらぁ! 勝手に何をやっとる!」
怒号が響いた。
びっくりして振り返ると、そこにはグレゴリーさんにも負けないムキムキの大男が。人相の悪さから見て山賊かな? ――と、思っていたが、
「落ち着いてくださいよ、フランクさん!」
「えぇい! 放せぇ! 俺はここの料理長だぞ! その俺に断りもなく何をしている!」
俺たちをここまで案内してくれた騎士たちに止められるその人は、どうやら騎士団食堂の現料理長らしい。
……まあ、見た目からして「細かいことは気にするな!」ってタイプだし、キッチンがここまで荒れた状態なのは彼の性格から来ているのだろう。
「彼女たちは料理の指南役として招待されたんです!」
「料理の指南だとぉ!?」
騎士の言葉を聞いたフランクさんの鋭い眼光がこちらへと向けられる。これだけキッチンを荒らしておきながらも、そこは料理人。俺たち六人の中から、料理経験者がマルティナであることを見抜くと、ゆっくり近づいていく。
「あんたみたいなお嬢ちゃんが、俺に料理を教えるっていうのか?」
「そのように頼まれました」
厳つい顔ですごまれても、マルティナは一歩も引かない。こと料理に関しては、譲れないものがあるのだろう。
幼い頃から一流料理人である父ヒューゴさんのもとで修業している彼女にとって、キッチンの惨状はよほど見過ごせなかった状況だったらしく、その口調には珍しく怒気が感じられた。
「ねぇ、ちょっと」
そんなことを考えていると、キアラが耳打ちをしてくる。
「もしかしてマルティナ……怒ってる?」
「やっぱりキアラもそう思うか?」
「なんていうか……いつもと口調は一緒なんだけど、なんだかちょっとそんな感じがするのよ」
うまく言葉にできないようだが、気持ちは十分に伝わった。
他のみんなも心配しながら状況を見守っている中、フランクさんをなだめていた騎士のひとりが決定的な言葉を口にする。
「これはレジナルド騎士団長の命令でもあります!」
「うぐっ!?」
さすがに、騎士団長の名前を出されては何も言い返せないか――と、思っていたが、それでもフランクさんは納得いかない様子で、
「ならば……この俺と料理対決をしろ!」
マルティナを指さしながら、そう宣言した。
「分かりました。受けて立ちます」
これに対し、挑まれたマルティナは真っ向から受け止めるようだ。
……なんだか、ややこしい展開になってきたぞ。
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