第114話 相談事
屋敷の応接室を借りて、ヒューゴさんにローレンスさんから依頼された騎士団食堂の件について話をする。
「ふぅむ……確かに、騎士団の食堂で振る舞われる料理がイマイチであると噂で聞いたことはあるが、まさかマルティナに依頼をしてくるとは」
ヒューゴさんは大きく息を吐いてから、
「ローレンス・ブラファー……なるほど。直接顔を合わせたことはないが、さすがは次期騎士団長と目されるだけの男だ。マルティナに食堂改善を依頼するとは、見る目があるじゃないか」
「重度のシスコンですけどね」――とは口が裂けても言えなかった。
ただ、ヒューゴさんの口ぶりだと、マルティナならば騎士団の食堂を改善できると確信しているようだ。
マルティナの手料理は毎日口にしている。
だからこそ、きっとうまくいくと思っていた。
だが、それはあくまでも素人目線での意見。
食堂ということは、俺たちの食卓のように少人数へ振る舞うわけじゃない。何もかも勝手が違う。これほど環境が違うところで、いつものような料理が作れるのか――そんな疑問を、ヒューゴさんは一蹴した。
「不安に感じることはない。マルティナならばきっとやってくれる」
自信たっぷりといった感じのヒューゴさん。
王国でも屈指の名料理人と呼ばれた彼が、幼い頃からその技術や知識を惜しみなく注ぎ込んで育てたマルティナならば、きっと騎士団の食堂を良い方向へ導けると信じているのだろう。
「マルティナ。おまえは冒険者でありながら料理人としても上を目指している――そうだったな?」
「は、はい」
「だったら、その仕事をまっとうしてみるんだ。これまで培ったすべてをぶつけてこい」
「分かりました!」
マルティナの瞳に炎が宿る。
「よぉし! やってみせろぉ、マルティナ!」
「任せてください!」
このふたり……似た者親子だな。
とりあえず、エールをもらえたことはよかったが――俺たちが求めているのはもうちょっと具体的な対策案だ。
燃え上がるふたりにそう伝えると、
「そうだったな」
「そうでしたね」
ふたりはすぐに冷静さを取り戻す。
本当に息ピッタリだな。
気を取り直して、騎士団食堂の改善についていくつかの具体案を出してもらった。
「注意すべき点は……彼らの職務内容についてだ」
「職務内容?」
「騎士団は戦うことが主な仕事だ。争いごとがなくても、毎日過酷な鍛錬に明け暮れている。一日の仕事が終わる頃にはみんな腹ペコになる」
「となると……かなりの量が必要になりますね」
「そこが最大の課題なんだ」
なるほど。
騎士団ともなれば、全員で三百人近くに達する。
しかも大半は屈強な男たち。
彼らの胃袋を量でも味でも満足させるのは……相当大変だぞ。
「そこまで言えば、大体察せられるだろうが……料理人の腕だけでどうにかなるレベルではない」
「えっ?」
「私がマルティナの成功を信じて疑わないのは――君がいるからだよ」
「お、俺ですか?」
俺がマルティナの成功に関係している……?
どういうことだ?
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