第113話 親子の再会

 バカンスから戻ってきた俺たちは、早速次なるお仕事へ向けて始動。

 グレゴリーさんにお願いして、カルバン家への野菜配達を俺たちが務めることになった。


 理由はもちろんただひとつ。

 カルバン家の厨房を預かる料理長のヒューゴさんに会うためだ。


「久しぶりに会うんだよな」

「はい!」


 マルティナにとっては父親であり、料理を教えてくれた師でもある。

 料理人としての道を逸れて冒険者を目指し、父のもとを離れたマルティナ。

 当初、ヒューゴさんは自分よりもマルティナの方が料理人として才能があるとし、英才教育をしてきたため、冒険者を目指すと言いだしたことで親子の間に溝ができていた。

 しかし、それも過去のこと。

 今は俺を経由してしっかり和解できている。

 今回は野菜の配達をしつつ、そんなヒューゴさんに騎士団食堂の料理としてどのようなものが相応しいのか、そのアドバイスを教えてもらいたいという目的もあった。


 

 カルバン家に到着すると、すんなり敷地内へと入れてくれた。

 屋敷の周辺は厳重に守られているが、俺たちは前に一度来ており、しかも料理長の娘であるマルティナが一緒ということで顔パスだった。おまけに、今回はブラファー家のご令嬢であるシャーロットもいる。さらに信頼度は増しただろう。


 ちなみに、クラウディアさんはダンジョンに残り、ウッドマンたちを率いて部屋の掃除などの家事を担当してもらっている。

 これはシャーロットの強い意向が反映されている。

 話を聞く限り、シャーロットはあくまでも自分の家と関係のない者たちだけで行動したいという気持ちが強いらしい。専属メイドであるクラウディアさんがそばを離れるのは本来あってはならないことであるが……本人があそこまで主張していたら、さすがに退かざるを得ないか。


 その分、俺たちがシャーロットをしっかり守るということで話はついた。


 ということで、キアラたちが野菜の受け渡しをメイドさんたちにしている間、俺とマルティナはヒューゴさんのもとを訪れた。


「お父さん!」 

「マ、マルティナ!?」


 父ヒューゴさんの姿を発見し、嬉しそうに駆け寄るマルティナ。一方、ヒューゴさんの方は突然の来訪に驚きを隠せない様子。


 ――って、そりゃそうか。

 かなり間があいていたし。


「ど、どうしたんだ?」

「今日はヒューゴさんにお話ししたいことがあって」

「お話したいこと……?」


 久しぶりの再会を抱き合って喜んでいるヒューゴさんに俺がそう告げると、突然、襟を正して「コホン」と咳払いをする。

 ……なんで急にそんなかしこまったんだ?


「そ、それで、わざわざふたりだけになってしたい話というのは?」

「実は、騎士団の食堂で出すメニューを頼まれて……どんなものがいいか、お父さんに相談しに来たんです」

「……何?」


 ヒューゴさんは何度か俺とマルティナを交互に見てから、


「ま、まあ、それはそうか。まだ早いよな」


 そんなことを呟いてから、もう一度咳払いをし、


「分かった。話を聞こう」


 厨房から離れて相談に乗ってくれることとなった。

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