第111話 バカンスのその後

 ブラファー家のメイドさんたちが腕によりをかけて作ったという新鮮な海の幸を使った料理の数々。

 海とは縁遠いダンジョンという場所で暮らす俺たちにとって、普段食べ慣れないものばかりであったが、その味はまさに一級品だった。


「おいひい~」

「ホントでふ~」


 キアラとシモーネは満面の笑みを浮かべながら凄いペースで料理を頬張っている。それを「やれやれ」という感じで見守りながら食事を続けるハノン。

 一方、マルティナは料理を楽しみつつもメイドさんたちに調理方法を聞いていた。


「なんと! そのような味付け方法があったなんて!」


 こっちはこっちで満喫しているようだ。


「いかがです? ブラファー家自慢の料理は」

「とてもおいしいよ、シャーロット」

「それはよかったですわ」


 シャーロットもまた嬉しそうに言った。

 こっそりクラウディアさんが教えてくれた情報によると、自分自身はメイドさんたちの作った料理をとてもおいしいと思えるが、俺たちもそれを気に入るかどうかとても心配していたそうだ。


「まあ、当然の評価だな。うちのメイドたちは何を作らせても一級品の味が出せるよう鍛えられている」


 すっかり居着いているローレンスさんも満足げだった。



 食事を楽しんだ後はティータイムへ突入。

 おいしいお茶を飲みながら、なんでもない世間話に花を咲かせる。その中では、ローレンスさんから依頼された騎士団の食堂についても話した。

 リラックスできる場に仕事の話を持ち込むのは少しはばかられたが、せっかく依頼人がこの場にいるんだし、何か疑問があれば答えてくれるだろうと判断して話をしたのだ。


 みんなの反応は「やりましょう」という肯定的な意見ばかり。

 ここまでは俺の想定通りだったのだが、意外なひと言を放ったのはマルティナだった。


「確かに、ダンジョン農場で育った野菜はいい影響を与えるものばかりですが、適切な方法で調理をしないと効果を十分に発揮できないものもあるんです。騎士団の食堂にはその知識を持った方はいますか」


 サンダー・パプリカやフレイム・トマト辺りは比較的簡単なのだが、それ以外の野菜にはマルティナの指摘した通り、少し厄介な下処理をしなければならないものもある。


 マルティナの父親で、貴族であるタバーレス家の厨房を預かるヒューゴさんは、その知識に長けていた。娘であるマルティナも、父親のヒューゴさんからそのノウハウを伝授してもらっている。


 それに匹敵する料理人はいるのかという質問に対し、


「…………」


 ローレンスさんから返ってきた答えは「沈黙」であった。

 ただ、その何も語らないという反応は、ある意味、置かれている状況を雄弁に物語っていると捉えられる。


「……騎士団の食堂だが、正直に言うとあまり評判がよくないんだ」


 やがて、ため息とともにローレンスさんは現状を語った。


「君たちの育てている野菜が各所で好評だということはライマル商会のグレゴリーから聞いて知っている。だから、その野菜があれば、少しはマシになるのではないかと思っていたのだが……」


 思わぬ課題が見つかり、頭を抱えるローレンスさん。

 そこで、マルティナがある提案を持ちかけた。


「野菜を届けた時に私が教えますよ」

「えっ? い、いや、しかし――」

「問題ありません。ね? ベイル殿?」


 ニコッと微笑みながら尋ねてくるマルティナ。

 そんな輝く笑顔を向けられたら、こう言わざるを得ない。


「もちろんだよ」


 こうして、騎士団へ野菜を届けると同時に、料理指南もすることとなった俺たちであった。

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