第110話 兄妹
風呂からあがると、お楽しみのディナータイムが始まる。
実は、俺たちが海で遊んでいた時、船乗りたちが協力をして海の幸を手に入れてくれたとクラウディアさんから教えられた。
ブラファー家の令嬢であるシャーロットのためだけでなく、俺たち客人をもてなすためでもあるという……ありがたい限りだ。
海の男たちが獲ってくれた海の幸。
それをブラファー家のメイドさんたちが腕によりをかけて調理し、再校の料理となって俺たちの前にあるテーブルの上に並んでいた。
「凄いな!」
「本当!」
「どれから手をつけるか迷っちゃいますね!」
「こういう料理は初めて食べるな」
「私はドラゴンの姿だとほとんど丸飲みにしてしまうので新鮮です!」
ダンジョン農場には大きな地底湖があるため、そこで釣りをして魚をゲットし、マルティナが調理してくれるのでまったく食べないわけじゃない。
しかし、やはり海の魚は違う。
それに加え、今回は貝やらイカやら海産物まで揃っている。
今までに味わったことのない、海の味が楽しめるのだ。
「ふふーん! これこそがブラファー家自慢の海鮮料理ですわ!」
「その通り。それにしても、相変わらずうまそうな料理を作るな、うちのメイドたちは」
「優秀ですから!」
「やはり年に一度はこれを食べなければな」
「まったくですわ! ――ところで」
「うん? どうした、シャーロット」
「どうしてお兄様がここにいるんですの!?」
ここでようやくシャーロットがローレンスさんの存在に気づいた。――いや、本当はとっくに把握していたのだろうけど、本能がそれを認めなかったって感じだ。
「まさかとは思いますが……騎士団の遠征をすっぽかしてきたのでは……」
「それはない。きちんと許可は取ってきた。可及的速やかに解決しなければならない重大な案件が発生したため、急遽実家へ戻ると――」
「大袈裟すぎですわ!」
その言い方は確かに誤解を生みそうだ。
というか、風呂場で全裸待機していたからなぁ……今にして思えば、全裸になる意味あったのか?
……って、話が逸れた。
「まったく……今日は新しい仲間のみなさんと楽しもうと思っていたのに……」
「そう言うな。おまえに友だちができるのは兄として喜ばしいこと。――だが、ブラファー家の名を欲して近づいてきた輩がいたのは覚えているだろう?」
「…………」
シャーロットは黙ってしまった。
近くにいたクラウディアさんがローレンスさんの後頭部へさりげなく肘うちをしていたところを見ると、あまり触れられてほしくない話題だったようだ。
だが……なんとなく想像はつくな。
ローレンスさんが過保護気味なのは、それが原因かもしれない。
この微妙な話題に、同じ学園に通うキアラが触れた。
「少なくとも、あたしたちは誰もブラファー家の名前に興味はないわ。――あなたと一緒に遊びたいとか、そういうことは思うかもだけど」
「キアラさん……」
不器用なキアラらしい言葉だった。
しかし、その想いは俺たち全員の抱いているものと一致している。
俺もマルティナもハノンもシモーネも、まったく同じ気持ちだ。
「……さあ、冷めないうちに食べますわよ!」
恥ずかしさと嬉しさで感情がごちゃ混ぜになっているシャーロットは、顔を見られないように俺たちへ背を向け、料理へと手をつけた。
「俺たちもいただこうか」
先陣を切って俺が言うと、みんなもそれに続く。
今はただ、楽しいと思える時間をお腹いっぱい満喫しよう。
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