第109話 裸の付き合い(健全)

 風呂に入ろうとしたら、待ち構えていたのは全裸で仁王立ちするローレンスさんでした。


「「…………」」


 しばらく見つめ合った後、


「すいません。間違えました」


 俺はそう言って再び脱衣所へ。

 ……時間が欲しかった。

 頭を整理する時間だ。

 なぜ、遠征中のローレンスさんが先回りして風呂に入っているのか。どこかで女子が風呂から上がるまで待機していたのか? そもそも目的は何だろうか。


 ――って、この人が俺絡みで動く案件といえば……シャーロットのことしかない。


「クラウディアからの手紙によれば……俺がいない間にシャーロットと随分派手なことをしているようじゃないか」

「し、してないですよ!」


 あの人、手紙になんて書いたんだ!?


「……本来ならば斬り捨ててしまいところだが……あまり無茶をやってまた会話禁止令を発令されたらたまらんからな。――今度は命を落とすかもしれん」


 前に一度やらかしているのか……。


「というわけで、今回は監視業務に従事することとする」

「えっ? 監視?」

「もちろん、おまえとシャーロットのふたりの監視だ。まあ、その他大勢の女子と仲良くする分にはいいが……」


 シャーロットへの愛が凄いな……俺は兄妹がいないから、その情熱の出所についてはよく分からないけど、とにかく妹を守ろうとする兄と気持ちは伝わってくる。


「き、肝に銘じておきます」

「それでいい。――さて、ここからは内容が逸れるのだが……」

「はい?」

「ダンジョンで農場をやっているそうだな?」

 

 まさかの話題だった。


「え、えぇ、やっています」

「ふむ。――実は先日、とある大陸で商人をしている男が騎士団を訪ねてきてな。……どこかの誰かさんのようにたくさんの女性を連れて」

「そ、そうなんですね……」


 明らかに俺のことを指しているな、その言い方は。


「まあ、とにかく、変わった男でな。商人のくせに魔剣使いときている。それもかなりの腕前だ」

「そ、そんなに……」


 ローレンスさんは騎士団でも屈指の実力者として有名だ。その彼がここまで手放しに誉めるなんて……本当に凄い人なんだろうなぁ。


「一度騎士団へ入らないかと誘ったが断わられたんだ……実に惜しい。ヤツほどの実力ならば、騎士団長も夢ではないだろうに」

「は、はあ……」

「おっと、すまん。話が逸れてしまったな。それで、その商人はライマル商会へも立ち寄ったらしく、そこで君の育てた野菜を食べたらしい」

「うちの野菜を?」

「あぁ……それで、味もいいし、魔力や疲労も回復するという話を聞いて、うちの騎士団長が興味を持ってな」

「レジナルド騎士団長が……」


 俺を特務騎士として任命したレジナルド騎士団長が興味を持った――ということは、


「その野菜を騎士団の食堂へ提供してもらいたくてな」

「騎士団の食堂へ、ですか?」

「ああ。ライマル商会にはすでに話を通してある。本当は遠征から戻った後で君のもとを訪ねる予定だったが……思わぬ理由で早めの再会となったのでな。監視のついでに聞いておこうと思ったのだ」


 むしろ監視をついでにした方がよさそうなんだけど……ただ、グレゴリーさんにも話は通してあるというなら、断る理由はない。俺としても、作った野菜が国を守る使命に燃える騎士たちの力になるというのなら嬉しいし。


「分かりました。お引き受けします」

「…………」

「? ど、どうかしました?」

「いや、意外とあっさり決めるのだな、と思って」

「命を懸けて国を守ろうとしているあなた方の力になれるなら、俺としても喜ばしいことです」

「そうか……」


 ローレンスさんはそれから「まあ、湯船に入れ」と手招きをし、ふたりで絶景を楽しみながら疲れを癒した。



 ……少しは仲良くなれそうかな?

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