第107話 お披露目

「お待たせしました~」


 先頭を切って走ってくるマルティナが、手を振りながら言う。――けど、その言葉は俺に届いていなかった。厳密に言うと、それどころではないのだ。


 現れた五人の少女。

 見慣れている顔ぶれだけど、水着を身にまとっただけでこうも違った印象を与えるとは……なんだか、魔力めいたものを感じる。


「ベイル様」

「! な、何っ!?」


 突然、クラウディアさんに声をかけられた。


「ここは第一印象が肝心です。みなさんがこちらに着いたら、とりあえず褒めまくってください」

「えっ? 褒めまくる?」

「どんな些細なことでも構いません。シンプルな言葉でいいんです。余裕があれば、何か一言添えていただけるのがベストです」

「あ、あの」

「さあ、早く」


 ……なんか、死に際の修羅場みたいなやりとりになっちゃったけど――確かに、こういう場面では女性を褒めるべきだ。みんな、あれだけ悩み抜いて買った水着なわけだし。


「マルティナ」

「はい?」

「水着、よく似合っているよ。うん。可愛い」

「かわっ!?」


 俺の言葉を受けたマルティナは一瞬にして顔を真っ赤にし、フリーズ。それが正解なのかどうか、俺には判断しかねるところだが、近くにいたクラウディアさんからは「お見事です」という言葉をいただいたので、たぶん合っていたのだろう。


 正直なところ、女性を褒めるという行為に慣れていないため、ほとんど手探り状態であったが――


「ま、まあ、ベイルにしては上出来ね」

「あ、ありがとうございます……」

「と、当然の評価ですわね」

「……まあ、悪い気はせんな」


 この反応……失敗だったか!?


「いえ、大成功です。これ以上ない戦果です。正直、ここまでやれるとは想定外でした。あなたは将来とんでもない女性泣かせの農夫となるでしょう」

「どういうこと!?」


 言っている意味はよく分からないが……誉め言葉として受け取っておこう。



 パラソルを設置し終えた俺たちは、それから海を満喫した。


 シモーネは途中からドラゴン形態となって海原へと繰り出していき、俺たちは浅瀬で泳いだり水をかけ合ったりと遊び倒す。

 お世話係のクラウディアさんは、メイド服のまま俺たちの遊んでいる様子を遠くから眺めていた。一度、水着に着替えて遊ばないのかと尋ねたら、


「なるほど……私のような年上も攻撃範囲に含まれるのですね」


 と、言われてはぐらかされる。


 ただ、


「私たちは……シャーロット様が楽しそうにしているのを見ているだけで十分なのです」


 そう語った瞳は、とても優しげだった。

 きっと、偽りのない本心だからだろう。

 そして、それは他の使用人たちも同じ気持ちのようで、積み荷をおろしているメイドさんや船乗りたちも、穏やかな目つきでシャーロットを見つめていた。


 愛されているんだな、シャーロットは。


 そういえば、兄であるローレンスさんにも溺愛されて――


「っ!?」

「? どうしましたか、ベイル様」

「いや、その……なんか今、猛烈な悪寒が……」

「悪寒?」


 そう。

 何か、とんでもないものが迫りつつあるような予感がする。

 気のせいだといいんだけど……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る