第105話 出航
港町へ着いた俺たちを待っていたのは、すでに出港準備の整った帆船であった。
「ず、随分大きな船ですね」
「あちらでの生活に必要な品物も同時に運びますので」
クラウディアさんの説明を聞いて納得した。
確かに、離島の別荘ともなるとそう頻繁に行き来する場所じゃない。よく足を運んで年に二、三回といったところか。定期的に使用人が別荘の様子をチェックしに行くと言っていたが、そこで寝泊まりをするわけではないので、常に食糧なんかを別荘に置いておくわけにはいかないのだろう。
話では、数日前に別のメイドさんたちが前乗りして別荘の掃除やその他いろいろと準備を進めてくれているらしい。
一方、女子四人は海の広大さと美しさにすっかり魅了されていた。
「潮風が気持ちいいです!」
「天気も晴れだし、文句なしね!」
「泳いだら気持ちよさそうですぅ!」
「シモーネの巨体でも有り余るじゃろうな」
みんなテンションが高いな。
さすがにシャーロットはここへ何度も来ているから慣れていると――
「さあ! あそこに見えるのがわたくしたちの向かう島ですわ! あちらにはもっと美しい光景が広がっていますのよ!」
一番テンション高かったわ。
それから俺たちは荷物を船へと積み込み、いよいよ出航。
船旅はおよそ一時間ほどだというが、それもほとんどのメンバーが初体験ということでここでも大いに盛り上がっていた。
「凄いです! 思ったよりずっと速いです!」
「いつもは空を飛んでいますから新鮮ですねぇ」
「ワシも船に乗るのは初めてじゃ」
乗船の経験があるキアラ以外は縁に集まって海を眺めている。それを見たキアラは「みんな子どもねぇ」とひとり乗船マウントを取っていたが……明らかに混ざりたそうにしていた。素直に割って入っていけばいいものを。
ちなみに、シャーロットも似たようなリアクションをしてしまい、素直に楽しんでいるマルティナたちの輪に入り損ねていた。本当に似た者同士だな、あのふたりは。
と、その時、クラウディアさんが乗船している別のメイドさんと何やら話し込んでいる姿を目撃する。
その表情は暗く、どう考えても悪い知らせを受けているように映った。
「あ、あの、クラウディアさん、何かあったんですか?」
「ベイル様。それが、少しおもしろ――いえ、困ったことになりまして」
あれ?
今、面白いって言いかけなかった?
「そ、それで、何があったんです?」
「どうやらローレンス様が合同演習を早めに切り上げてこちらに向かっているそうなのです」
「ローレンスさんが?」
となると……やっぱりあの手紙の内容を気にして、か。
「ご安心ください、ベイル様」
「えっ?」
「あなたとシャーロットお嬢様の甘いひと時は邪魔させぬようにしますので」
「…………」
いやいや、仕掛け人が何言ってんの!?
そうツッコミを入れようとした時だった。
「まあ、騎士団に入団してからずっと働き詰めで、まともに休みをもらったことのないローレンス様にとっても、幼少期以来となるこの島で過ごすひと時はよい休息になると思います」
……うん?
もしかして、最初からそれが狙いだったのか?
ご両親が来られなくなって寂しい思いをしているシャーロットを慰め、尚且つ、悪い意味で労働者の鑑と化しているローレンスさんを心配して――
「まあ、私としても楽しめそうなので願ったり叶ったりの状況ですか」
――いるのかどうか定かじゃないけど……まあ、悪い意味に捉えることもないか。
そうこうしているうちに、いよいよ島へと到着。
俺たちのバカンスが幕を開けた。
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