第104話 港町へ

 水着の準備を整えると、俺たちは一度ライマル商会へと立ち寄る。

 そこで、バカンスの件をグレゴリーさんへ報告した。


「いいじゃないか。しっかり休んでリフレッシュしてくるといい」


いつものように豪快な笑い声を出しながら賛成してくれ、受付担当のジェニファーさんからは「お土産よろしく~」と送り出されるのだった。



 ダンジョンのツリーハウスへ戻ると、明日に向けて今日は早めに休むこととした。というのも、これまで訪れたどの場所よりも移動距離が長いため、かなりの時間を要することが予想されたからだ。

 

「明日は朝も早いから、食事を済ませて風呂に入ったらすぐに寝よう」


 俺の呼びかけに、六人は揃って了解の返事をくれた。

 ちなみに、シャーロットとクラウディアさんの部屋は四階に決まる。そこで隣同士の個室となったが、これはシャーロットからの提案であった。


「メイドは主であるわたくしのそばにいるのが第一。これは当然の判断ですわ」


 というが、その直後、


「いえ、本当は時々私と一緒でないと眠れないという日があって――」

「それは言ってはダメなヤツですわ!?」

「えっ? そうなんですか?」


 明らかにすっとぼけているクラウディアさん。

 ……優秀だし、ブラファー家への忠誠心はあるんだろうけど、シャーロットに対する扱いが時々雑な気がする。


 まあ、それは置いておくとして――新しい部屋も決まったわけだし、今日のところはこのまま体を休めて明日に備えるとしよう。


  ◇◇◇


 翌朝。

 初めてのバカンスに浮かれる俺たちの心をそのまま表したような青空が、地底湖の真上に開いた穴からのぞき見えた。


「いい天気だな。長旅にはもってこいだ」


 晴れやかな空のもと、馬車でのんびりと自然を楽しみながら進むのは気持ちがいいだろうな。

 目的地は大陸東部の港町。

 そこはブラファー家の領地であり、所有する船もたくさんある。そのうちの一隻を借りて島へと移動する計画だ。ブラファー家と懇意にしている船乗りも多く、いつでも出航できる準備はできているらしい。


 ちなみに、陸での移動手段である馬車はシャーロットが用意してくれた。


「ここなら馬の飼育もできると思いまして」


 確かに、ここでなら可能だ。

 とはいえ、馬を飼育するとなると放牧するスペースが必要になる。今ちょうど規模拡大しているところなので、厩舎と放牧用の空間もつくっておかなくては。

 ……って、ゆっくり休むはずがもう仕事のことを考えている。

 これはいけないな。

 猛省しなくては。


 軽く朝食を済ませると、俺たちは荷物を馬車へと詰めていく。

 シャーロットとクラウディアさんについては、すでに必要な物を用意して島の別荘へ運ぶよう指示を出しているらしく、手ぶらで移動できるという。


「さあ、お乗りください」


 御者を務めるクラウディアさんに促され、俺たちは馬車へと乗り込む。

 五人で乗るとさすがにちょっと狭いが、こればかりはしょうがない。

 

 こうして、俺たちは旅の準備をすべて整えると、いよいよブラファー家が所有する離島の別荘へと向けて出発した。

  

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