第103話【幕間】その兄、シスコンにつき
大陸東部に広がる大平原。
ここでは年に数回、クレンツ王国と友好関係にあるフォスター王国の騎士団同士で合同演習が行われている。
中でも盛り上がるのは、互いの騎士同士による実戦形式の演習。これには各騎士団を代表する者が選出され、腕を競い合うのだが、その中でひときわ目立った強さを誇る騎士がいた。
クレンツ王国騎士団に所属するローレンス・ブラファーである。
今も、フォスター王国騎士団の若きエース・フィルと剣を交えているが、スピード・パワーともにローレンスが圧倒していた。
「はあっ!」
「ぐあっ!?」
渾身の一撃が決まり、フィルは吹っ飛ばされて剣を手放した。
同時に、両陣営から歓声が飛ぶ。
「いやぁ、いつ見てもローレンス殿の剣さばきは見事なものだ」
「まだ入団して間もないが、すでに次期騎士団長の呼び声も高いらしいぞ」
「それも頷ける強さだ」
「うちのフィルだって決して弱くはない。それどころか、十年にひとりの逸材とされている……だが、クレンツ王国のローレンスは百年にひとりの逸材だな」
両方の騎士団から賛辞を送られるローレンス。
だが、彼は真っ直ぐに倒れているフィルのもとへと向かい、そっと手を差し伸べた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……参ったよ。完敗だ。今回こそはイケると思ったんだが」
「確かに、スピードもパワーも前回より磨き上げられている。恐れ入ったよ」
「ならば次の演習辺りには追いつけそうだな」
「どうかな? 俺も鍛錬を怠るつもりはない。そう簡単には抜かせないさ」
「ふっ、まだまだ上を目指そうというのか……敵わないな」
ローレンスとフィルは互いに固く握手を交わす。
ふたりのライバル関係を見届けた騎士たちからは、自然と拍手が起こった。
「なんという紳士的な振る舞いだ」
「それに、フィルの方も腐らずさらに精進を積もうとする姿勢が見られる」
爽やかな青年ふたりの戦いを見届けると、今度は別の騎士が交代で演習場へと入っていく。
ローレンスは今年入ったばかりの新入りから渡されたタオルで汗を拭い、さらにその新入りが用意した椅子へ腰かけた。
「悪いな」
「い、いえ、これくらいなんでもないですよ!」
「ははは、そう緊張するな。同じ騎士団の仲間じゃないか。これからもよろしく頼むよ」
「は、はい!」
周囲から注目される騎士であるローレンスにそう言われ、新入りは嬉しそうに頷いた。
――その時、
「あっ! そうでした!」
「うん? 何かあったのか?」
「ローレンス様にお手紙が届いていたんです」
「手紙だって?」
「はい。差し出し人はクラウディアという女性ですが……」
「! クラウディアだと……?」
クラウディアといえば、最愛の妹・シャーロットの専属メイド。
そのメイドが、自分に手紙を出すなどこれまで一度もなかった。
もしかしたら――妹に一大事があったのではないかと心配したローレンスは、新入りから手紙を受け取るとすぐに中を確認する。
「…………」
しばらく沈黙が続いたので、どうしたのかと新入りが「あの」と声をかけようとするのだが――先ほどまでの優しげな表情から一変し、険しい形相となったローレンスの迫力に驚いて言葉を飲み込む。
「……おのれぇ」
手紙を握りしめたローレンスは勢いよく立ち上がると、そのまま騎士団長であるレジナルドのところへと向かうのだった。
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