第102話 バカンスの準備

 ブラファー家の所有する島でバカンスを送る前にやっておかなければならないことがある。

 それは――水着選びだ。

 というわけで、俺たちはドリーセンの町にある服屋へと出向き、そこで水着を購入することにした。


「――とはいえ、男の俺が着るものは限られるよな」


 女子のようにバラエティーに富んでいるわけじゃないしね。

 そもそも、俺自身があまりおしゃれの類に興味がないからなぁ。着れたらいいやって程度だし、安価な物でいいや。

 その分、女子の皆様には存分に気合を入れていただこう。


「「「うーん……」」」


 唸っているのはマルティナ、キアラ、シモーネの三人。

 入念にチェックしているようだな。

 ちなみに、シャーロットに関してはすでに用意しているとのことだったが、どんな水着を選ぶのか見たいということでクラウディアさんとともについてきており、一緒になって水着を眺めていた。――って、あれ? ハノンの姿がないぞ?

 視線を巡らせると、すぐに見つかった。


「むぅ……」


 何やら難しい顔をしているが……その目は一点に集中している。それを追ってみると、どうやら水着のようだが――


「あ、あれって……」

「おっ? ベイルにもこの水着の良さが分かるのか?」


 俺がいることに気がついたハノンは、なんとも嬉しそうに説明を始める。


「そこにも書いてあるのじゃが、この水着はある高名な魔法学園の水魔法実習で使われる指定の水着だそうじゃ」

「学園指定の水着……」

「機能美に優れた洗練されたデザイン……それに、この深いブルーという色合いが実に渋い。うむ。気に入った。ワシはこの水着を買うことにするぞ」

「機能美……」


 それって……いわゆるスク水か?

 この世界にそのような概念があるとは思えないが、デザインは明らかにそれだった。とんでもない偶然だな、と思ったが、そういえばゲーム【ファンタジー・ファーム・ストーリー】に登場するアイテムの中にスク水があったことを思い出す。


 まさか……よりにもよってハノンがそれを選択するとは。

 いや、この場合、誰が選択してもダメな気はするが。


「ハノンちゃんも決まりましたか?」

「たった今、な。それがマルティナの水着か?」

「は、はい」


 少し恥ずかしそうにマルティナが見せたのはワンピースタイプの水着。


「私はこれにしました」


 続いてシモーネが持ってきたのはビキニタイプの水着。

 ……まあ、一部のサイズがメンバー中トップであるシモーネには、そっちの方が動きやすではあるが。


「あたしはこれよ!」


 最後にキアラが持ってきたのは白いフリルがついた可愛い系の水着。これもまた彼女のタイプに合っているな。


「ベイル殿は決まりましたか?」

「あぁ、俺は――」

「着用しないと?」

「いやするよ!?」


 待っていましたと言わんばかりにクラウディアさんがカットイン。一瞬、一部女子は真に受けて「えっ……?」と深刻そうな表情を浮かべていたが、冗談と分かるとホッと安心していた。


 というわけで、水着の準備も整ったことだし――いよいよ明日から島へ向けて出発するぞ。

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