第101話 不穏な影?
これまで、ダンジョン農場の運営を軌道に乗せることを目指してやってきたが、その目標はほぼ達成されたと言っていいところまで来ることができた。
そのご褒美ってわけじゃないけど、グレゴリーさんからも「たまには休め」と声をかけてもらったので、そのお言葉に甘えることとした。
目的地はブラファー家の管理する離島。
そこに別荘があるらしい。
ただ、クラウディアさんの話では、毎年夏の長期休校は家族とその別荘で過ごすらしいのだが、今年はご両親が仕事の関係で来られなくなったという。
その代わり、俺たちが別荘にお邪魔できることとなった。
「ねぇねぇ、水着を買いに行かない?」
「いいですね!」
「わたくしも行きますわ!」
「ドラゴンの姿で海に入ったことはありますが、水着を着て入るのは初めてです!」
「ワシはそもそも海というものを直接この目で見たことはないのぅ」
これまでもいろんな場所へ行った俺たちだが、仕事抜きのバカンスとなると今回が初めてとなる。
純粋に楽しめばいい――それだけなので、何も気負いする必要がない。こんな気楽に外へ出るなんてなかなかないな。
ブラファー家の別荘へ向かうための準備を進める中で、俺はクラウディアさんに島のことをいろいろと聞いていた。
……男は持ち物少ないから、女子に比べて圧倒的に準備がお手軽なのだ。
「島には特に名前などありません。三代前の当主様の時に造られたと聞いています」
「三代前か……結構前からあるんですね」
「先代と親交が深いフローレンス家という貴族がいるのですが、そちらも島に別荘をお持ちのようで、その影響を受けたと思われる」
「へぇ~」
意外と他人の影響を受けやすかったりするのかな?
「旦那様と奥様が来られなくなったという一報を受けた時、お嬢様はもうこの世の終わりだと言わんばかりに沈んだ表情で」
「そ、そんなに落ち込んでいたのか……」
まあ、なんとなく想像はつくけど。
「無理もありません。毎年、家族がみんな揃ってあの島で過ごすのですから」
「そうだよなぁ――うん? 家族揃って?」
あれ?
なんだろう……違和感がある。
何かを忘れているような。
「あっ! ローレンスさんは!」
「? ローレンス? …………あぁ、ローレンス様ですね」
……今、素で忘れていなかったか?
「ローレンス様でしたら、今頃は遠征で東方へ出向いているようです」
「そうなんだ」
「えぇ。ですので、手紙を送りました」
「手紙を?」
「はい。『いつもの島でベイル様と甘いひと時を過ごす』と書いておきました」
「えっ!?」
その内容はまずい――というか、捏造だろ。
俺だけじゃなくてマルティナやキアラ、それにハノンとシモーネといういつものメンバーで乗り込むのだ。
妹であるシャーロットを可愛がっているローレンスさんにそんな内容の手紙なんて送ったら……
「ご安心ください、ベイル様」
「えっ?」
「ローレンス様はここよりずっと東の平原で他国の騎士団と合同演習をしている最中です。それをすっぽかして島へやってくるなどあり得ません」
「そ、そうですか……」
なんだろう。
物凄いフラグの匂いがするんだがなぁ。
とはいえ、あれだけウキウキしているみんなに今さら行かないとは言えないし……ここはクラウディアさんの言うことを信じるしかないか。
……ちょっと心配だけど。
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