第100話 招待

 キアラとシャーロットは辛くも提出書類を完成させ、終業式への参加は間に合ったようだ。

 というわけで、本日は朝からふたりとも学園へと出向いて不在。

 残った俺を含めた四人はグレゴリーさんのもとへ野菜を届けるため、商会を訪れることとなっていた。学園は午前中で終わるとのことだったので、その帰り道に合流し、ドリーセンの町で買い物でもしようと考えていた。


 ふたりが来るのを待つ間、俺たちは待ち合わせ場所に指定している商会でしばし時間を潰すことに。

 ここには冒険者から買い取ったアイテムの一部が並べられており、専門店には及ばないものの、品数も多く、安価で手に入るという利点がある。それを目当てにやってくる客もいるのだ。 


「マルティナよ。たまにはこのような下着をつけてみるのも一興ではないか?」

「えっ? 下着――って! これほとんど下着の意味ないですよ!」

「わぁ~……」


 女子三人は男の俺が入り込みづらい話題で大いに盛り上がっていた。

 なんとなく気まずくなって、見る必要もない剣や斧といった武器を眺めていると、


「はっはっはっ! あれだけ女の子ばかりだと、男の君は肩身が狭いな!」


 豪快な笑いとともにグレゴリーさんがやってくる。


「あはは……でも、みんなが楽しそうで何よりです」

「ふむ。そういう君はどうだ?」

「えっ?」

「感心するほど働き者だが、しっかり体は休めているか?」

「休み……」


 まったく取っていないというわけではないが……そういえば、キアラとシャーロットが通う学園が一ヶ月ほどの長期休校に入るっていたな。そこまで長く休む必要はないけど、数日ほどの連休はあってもいいかもな。


「いい機会だ。君も少しのんびり休んでみたらどうだ?」

「のんびり……」

「例えば旅行なんてどうだ?」

「!」


 旅行、か。

 生活基盤も整って来たし、ライマル商会と学園に野菜や薬草を卸すことで安定した収入も確保できつつある。

 この世界のことを直接この目で見てみるのも悪くないかもな。


 旅行という単語に胸が高鳴っていると、


「それでしたら、わたくしの別荘へご招待いたしますわ」


 学園から戻ってきたシャーロットが、俺たちの会話に割って入る。


「べ、別荘?」

「王国の領海内にある小さな島にありますの。わたくしたちはそこに一週間ほど滞在してバカンスを楽しみますのよ」


 そういえば……聞いたことがある。

 オルランド家は山の方に別荘を持っているが、ブラファー家は海に別荘があるんだったな。宝石のような美しい海という評判で、大陸側の方はリゾート地として観光客が大勢押し寄せる。

 だが、ブラファー家の別荘は離島にある。

 つまり、完全なプライベートビーチというわけだ。


「いかがです? 完全プライベートビーチに食事は豪華な海鮮料理……後悔はさせませんわよ?」

「それは魅力的なお誘いではあるけど……いいのか?」

「問題はないかと」


 俺とシャーロットとの間からニュッと顔を出したクラウディアさんが告げる。

 ……この人、本当に神出鬼没だな。


「実を言うと、旦那様と奥様が多忙のため、今年はあの島へ行けないことが発覚し、いまにも泣きだしそうだったお嬢様を見かねておふたりが――」

「そこまで言わなくていいですわ!」


 なるほどね。

 そういうことか。

 

「招待ありがとう、シャーロット。ぜひ行ってみたいな」

「! で、でしたら、すぐに準備いたしましょう!」


 一気にテンションが上がるシャーロット。

 うん。

 俺も楽しみだ。

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