第99話 シャーロット、再び
騎士団から特務騎士として任命された――わけだが、特にこれといって変化は見られない。
本日も朝から元気に農場の拡張を開始。
シモーネは家畜たちを小屋から出して放牧させ、ハノンは農作物の管理をしつつ、シモーネの手伝いをしている。キアラとマルティナのふたりはダンジョン探索へと出かけて行った。
いつも通りの日常。
名前に騎士と入ってはいるが、特別な鍛錬をしたり、遠征に出たりする必要はない。あくまでも日々の生活の中で得た情報や、できる範囲での支援を騎士団に提供する。
今、彼らは一連の騒動の首謀者を追うことに躍起となっている。
あの霧の魔女までかかわっているとなったら、これ以上放置しておけない。しかも、霧の魔女の裏にまだ黒幕が控えている気配があるのだ。全容がまったく掴めていない現状を少しでも打破したいのだろう。
「ふぅ……こんなところか」
新たな家畜の飼育スペースに、薬草農園としての敷地も確保できた。
これもすべては竜樹の剣の力のおかげだ。
作業に区切りがついて、ひと息つこうとハノンやシモーネに声をかけてツリーハウスへと戻ろうとした――その時、何やらこちらに向かって勢いよく走ってくるふたつの人影が視界に飛び込んでくる。
「うん? あれは……」
ダンジョン側からこちらへと入ってこられるルートを知っている者は限られる。
そして今、この場にいない者といえば――
「マルティナにキアラ? もう戻ってきたのか?」
いつもなら夕方近くまで粘るのだが、今日はやけに早いな。確か、いつも通り、マルティナの作ったお弁当を持っていったはずだが……もしかして、どちらかが怪我でもしたのか!?
「どうかしたのか、ふたりとも!」
慌てて駆け寄るが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「忘れてたぁ!」
そう叫んだのはキアラだった。
「へっ?」
「忘れてたのよ! ――明日で学園の前期授業は終わりなの!」
「な、何? どういうこと?」
取り乱すキアラを落ち着かせ、事情を聞いてみると――彼女の通う学園は一年を前期と後期のふたつに分け、その間に一ヶ月ほどの長期休校が挟まるという。
で、その長期休校は明後日からであり、明日は前期最終日として終業式があるらしく、これはどの学生であっても絶対に参加しなくてはならないと義務付けられていたのだ。
「ヤバいわ……いろいろと提出しなくちゃいけない課題があるんだった……」
顔面蒼白になりながらツリーハウスへ戻ろうとするキアラ。マルティナには「この埋め合わせは必ずするから!」とも叫んでいた。
――と、そこへ、
「おまたせしましたわね!!!!」
騒がしい状況を余計に騒がしくする存在がやってきた。
ツリーハウスの最上階にある玄関から入り、この地底湖まで下りてきたのはここへの移住計画を練っていた俺の元婚約者であるシャーロットとその専属メイドを務めるクラウディアさんだった。
「お父様を説得してこちらへの移住を実現させましたわ!」
高らかに宣言するシャーロットだが……俺たちのリアクションは薄い。
「――って、なんだか反応が薄くありません?」
「あぁ……それは――」
「悪いわね、シャーロット。今それどころじゃないのよ」
鬼気迫るキアラの形相に、シャーロットは一瞬ビクッと体を強張らせる。しかし、すぐにいつもの調子へ戻った。
「あらあらキアラさん? 何をそんなに慌てていらっしゃるのかしら~? 淑女としてあるまじき――」
「あなた、明日が終業式だって知ってる?」
「……ふえ?」
キアラの放ったひと言で、シャーロットの顔色は一変。
……どうやら、彼女もすっかり忘れていたようだ。
こうして、シャーロットとクラウディアさんが新たにツリーハウスのメンバーに加わったのだった。
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