第98話 特務騎士

 レジナルド騎士団長から特務騎士に任命された――のはいいが、いまひとつピンとこないでいた。

 原作である【ファンタジー・ファーム・ストーリー】にも、そのようなジョブは存在していなかったしなぁ。

 ただ、普通の騎士とは違い、剣の鍛錬などは行わず、本来の仕事をしつつ、必要があれば情報提供や本職を生かした任務に就くということらしい。

 一応、報酬などの条件面についても説明を受けたが……なかなかに高額だな。それだけのリスクはあるから当然なのかもしれないが。あと、特務騎士の証であるバッジも同時にいただいた。

 そんなわけで、俺たちの役割はあくまでも「その時が来たら」という条件付き。

 なので、基本的にはそれを待つだけのフリーな立場だ。

 しかしその分……誰かに狙われる可能性は出てくるだろう。

今のところ、竜樹の剣でできるのは逃げたり時間稼ぎとか、そこ止まり。とてもじゃないが、霧の魔女クラスを相手にしたら命はないだろう。

 ……まあ、うちにはマルティナやシモーネといった戦闘特化タイプの仲間もいるので、彼女たちと一緒ならば大丈夫そうだけど……それは男としてなぁ……やっぱり、戦闘の手数を増やせないか、検討してみる必要がありそうだ。



 農場に戻った俺は、早速このことをメンバーに報告する。

 

「特務騎士……凄いです!」


 真っ先に反応したのはマルティナだった。

 剣士というポジションで冒険者をしている彼女は、騎士団に関する知識もある。ゆえに、特務騎士がどのようなものであるか把握していたようだ。


「常々思っていたんですよ! ベイル殿は特務騎士の器だと!」


 大興奮のマルティナ。

 これが一般的な反応なのか、それとも彼女特有のハイテンションさから来るものなのか、今の段階ではその判断はつかないな。シモーネはそもそもそっち関係の知識には疎く、ハノンは記憶を継承しているようだが、あまり興味がないようで「いいんじゃないか。応援するぞ」程度にとどまった。


 ――さて、気になるのはキアラだ。


 恐らく、彼女はこのメンバーの中でもっとも騎士団と近しい存在。だから、具体的な意見が出ることを期待した。

 その結論は、


「いいと思うわ」


 賛成だった。


「レジナルド騎士団長とは何度かお会いしたことがあるけど、人を見る目は確かよ。ライマル商会のグレゴリーさんも、確かスカウトされていたはずだし」

「グレゴリーさんが?」

「そうよ。もっとも、彼は私よりもずっと多忙な人だから、断ったみたいだけど」


 そりゃまあ……休みなんて滅多になさそうだもんなぁ、グレゴリーさん。


「ちなみに、この前の事件で一緒になった学園の薬草農園を管理しているウィリアムさんも現役の特務騎士のはずよ」

「えっ!? そうだったの!?」


 あの人はあの人で忙しそうだけどな。


「特務騎士になったというなら説明を受けていると思うけど、普段の生活を変える必要はまったくないわ。あくまでも、自分の仕事の範囲で見聞きしたことを報告する。あとは騎士団の作戦で必要となれば、本職の知識や技術を提供するってところかしら」


 農業特化の力が騎士団の力になれるとは思えないから、やっぱり情報提供がメインになるのかな。あと、水竜シモーネの圧倒的な力をキープしておきたいって狙いもあるのかもな。


 もっとも、彼女たち竜人族はまだ分からないことも多いので、最初から頼りにするようなことはなさそうだけど。


 ともかく、こうして特務騎士の件は全員に伝えることができた。

 あとは――こっちへの移住を希望しているシャーロットがどうなったかだな。

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