第97話 要請
「今日ここへ君を呼んだ理由――薄っすらとかだが、心当たりはあるんじゃないか?」
なんとも勿体ぶった言い方をするレジナルド騎士団長。
心当たりについてだが……正直に言って。
「ありすぎる、というのが本音ですね」
「ははは、君は正直だな」
レジナルド騎士団長は笑いながら言う。
そりゃまあ……直近でも学園の薬草農園絡みであの霧の魔女と対峙したものなぁ。この手の組織が俺なんかに目をつける理由といえば、これくらいしか思い当たらない。
或いは――俺に疑惑の目を向けているんじゃないのか?
「安心してくれ。君を疑っているわけじゃない」
こちらの思考をあっさりと見抜いたレジナルド騎士団長……なるほど。さすがは騎士団をまとめるトップなだけはある。
「ミネスト学園で起きた薬草農園の件を含め、この国を陥れようとする事件が相次いで起きている。それも、すべて明確な実行犯――言ってみれば、黒幕が謎のまま。捕まるのは下っ端の兵隊ばかりだ」
経緯を説明するレジナルド騎士団長は、心底悔しそうな顔をしていた。
こう言っちゃ悪いけど、騎士団は完全に向こうの術中にハマっているという印象を受ける。対応が後手に回っているんだ。
「正直なところ、我々騎士団もヤツらに手をこまねいているというのが現状でね」
バツが悪そうに笑い、顎髭をさすりながら、レジナルド騎士団長は現在の状況を嘆いていた――が、随分とあっさりぶっちゃけるな。
……恐らく、そこに俺を呼んだ答えがあるんだろう。
「今回君を呼んだのは他でもない。我々に協力をしてもらいたいんだ」
「協力?」
一連の事件の真相と黒幕の確保。
それを果たすために、レジナルド騎士団長は俺の力を借りたいという――ただ、俺の力といっても、
「俺には何もできませんよ。事件にかかわる機会は多かったですが……竜樹の剣では敵と戦えません」
その辺の雑魚モンスターならいざ知らず、霧の魔女クラスの大物が出てきては勝つことなど不可能。ただの足手まといとなってしまう。
――が、どうもレジナルド騎士団長のいう「協力」というのは、俺の考えていたものと少し違うようだ。
「戦闘面に関してはプロである我々に任せてもらいたい。君には周辺から得た情報をこちらへ流してくれればいい」
「情報を?」
「そうだ。現に、君以外にも何人かこの件を依頼していてね。彼らは特務騎士という立場となり、名目上は我々騎士団の一員ということになっている」
「騎士団の?」
今さら騎士団に入るつもりは毛頭ないが……ヤツらをこのまま放っておくというのも得策でないとは考えている。俺にできることは限られるが、情報収集といった面でならば力添えができるかもしれない。
俺はこの要請を引き受けることにした。
普段通りの生活をしてもらって構わないというレジナルド騎士団長の言葉も、この決断を後押しする形となる。
こうして、俺は農夫の仕事をしつつ、特務騎士として騎士団に協力をすることになった。
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