第96話 招かれた場所は

 ツリーハウスを訪ねてきたのは三人の若い騎士であった。

 彼らの話によると、何やら俺に聞きたいことがあるらしい。


 ――何について聞きたいのか、おおよその見当はつく。

 エーヴァ村から立て続けに起きている事件のことだろう。

 あと、「君たち」ではなく「君」ということは、


「……呼び出しは俺だけですか?」

「そうだ」


 若い騎士は短く告げた。

 俺は一度大きく息を吐いてから、振り返る。そこには、心配そうにこちらを見つめる四人の少女の姿があった。


「大丈夫だよ。ちょっと話をしてくるだけだから」


 みんなを安心させるためにそう告げて、俺は騎士たちが用意した馬車に乗り込む。

 恐らく、霧の魔女との一件はすでに彼らの耳にも届いているだろうから、俺を容疑者として連行するってわけじゃないはず。

 とはいえ、はじまりの事件から学園の薬草農園事件に至るまで、すべてに絡んでいるとなったら、疑うまではいかなくとも話くらいは聞きたいだろう。そこにあの霧の魔女が絡んでいるとなったら尚更だ。

 となると、俺を呼びだしたのは……騎士団でも上位の人ってわけか。

 いずれにせよ、今後について話をしたいというのは俺も同じだ。

 一体、誰が俺を呼んだのだろうか。



 馬車は王都へと向かい、城へと案内される。

 ここまでは至って想定通り。

 あとは応接室にでも通されて関係者と――


「こっちだ」

「えっ?」

「うん? 何かあったか?」

「い、いえ、別に」

 

 ここで想定外の出来事が発生。

 てっきり、来客用の応接室へ案内されると思ったのだが……どうやら違うらしい。まさか国王陛下が相手とか? ――さすがにそれはないか。

 さまざまな思考が渦巻く中、俺が案内されたのは、


「!? こ、ここって……」


 騎士団長室。

 部屋の前にかけられた木製のプレートにはそう刻まれていた。


「レジナルド騎士団長が直々に君と話をしたいそうだ」


 レジナルド騎士団長――知っている。

【ファンタジー・ファーム・ストーリー】では、シャーロットのお兄さんであるローレンスさんとともにメインストーリーにも顔を出す人物だ。

 その騎士団長が自ら俺に会いたいと言っているらしい。

 

「失礼します」


 先頭を行く若い騎士がノックをする。

 すると、中から「入れ」と短く野太い声が。

 ゲームではCVがついていなかったけど……イメージ通りの声だった。


 部屋に入ると、まず大きな執務机が目に入る。

 そこにいるのが――レジナルド騎士団長だ。


「おまえたちはもう下がっていいぞ」

「はっ!」


 騎士たちは敬礼をして部屋から出ていった。

 それにしても……凄い威圧感だ。

 まるで獲物を前にした猛禽類のごとき眼光――視線を合わせただけなのに、肌が粟立つのを感じる。これが歴戦の勇士ってヤツか。


「突然呼びだして悪かったな」

「い、いえ」

「オルランド家を追いだされたという噂を聞いたが……元気そうにやっているようで何よりだ」

「すべてはこの剣と仲間たちのおかげです」


 そう言って、俺は竜樹の剣へと視線を落とす。


「竜樹の剣か……伝説だとばかり思っていたが、まさか実在する武器だったのは驚きだよ」


 レジナルド騎士団長は怖い見た目と荒っぽい口調ではあるものの、どこか柔らかな雰囲気を持っていた。おかげで、少し緊張がほぐれたよ。


「では……そろそろ本題へ移ろうか」


 咳払いをしてから、レジナルド騎士団長はそう切り出した。


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