第95話 拡張計画
グレゴリーさんの店を訪れるのは午後。
というわけで、午前中は農場で汗を流そうと足を運んだ。
「うーん……もうちょっと大きくした方がいいかな」
農場を眺めながら、そんなことを呟く。
ここ最近いろいろあった――その報酬とでもいえばいいのか。おかげさまでいろんなところから仕事が来るようになった。しかし、その反面、新たな問題も浮上している。
それが、安定した収穫量だ。
キアラの担当するうちの薬草農園も、しばらくは学園に供給することになったため、収穫量を増やす必要がある。それから、シモーネが担当している家畜部門も、これから数を増やしていきたいと考えていた。
なので、本日は農場の様子を見て回りながら、その規模を拡大させていこうと思う。
「確かに、この地底湖周辺にはまだまだスペースがあるし、いいんじゃない」
キアラの言う通り、地底湖周辺には農場に利用できそうな空間がある。
しかし、そこには固い土と大小さまざまなサイズをした石が転がっていた。今のままでは農場はおろか、まともに耕すことさえ困難だ。
そこで登場するのが――お馴染み竜樹の剣である。
農業特化という特性を持つこいつの力があれば、どんな荒れ地でもたちまち農業に適した土壌へと変わる。おまけに、地底湖から染み出た魔力を含む聖水の効果で、野菜の育ちも良好なうえ、味も一級品と来ている。
改めて思い返すと、ここは農場をやるためにできたダンジョンといって過言ではないだろう。まあ、元々は原作ゲーム【ファンタジー・ファーム・ストーリー】において、チート級の隠れスポットだったわけだしね。
あと、もうひとつ増やそうと考えているものがある。
それは――ウッドマンだ。
現在、うちにいるウッドマンは五体。
ここからさらに五体増やして、計十体にしようと思う。
植物を操れるアルラウネのハノンならともかく、農場が広くなれば、みんなだけの力でやっていくには限度があるだろう。そのサポート役と、俺たちが出かけている間の留守を任せられる存在として、彼らに頑張ってもらわなくては。
と、いうわけで、大体のビジョンは見えたから、早速作業へ取りかかろう。
魔力を込めた竜樹の剣を地面に突き刺すと、地底湖周辺の荒れ地の部分が見る見るうちに変化していく。味気ない茶褐色に黒を織り交ぜた色をした地面には、あっという間に緑の絨毯が敷かれていくように草が生えていく。それはあっという間に成長し、まるで草原のようになっていった。
「相変わらずの力じゃな」
半ば呆れたようにハノンが呟く。
一方、シモーネとマルティナは「凄い!」と声をあげて拍手を送っていた。
まあ、ここまではなんてことはない。
次は……新たなウッドマンたちだ。
それに取りかかろうとした時、突如鐘の音が響いた。
これはツリーハウス最上部――つまり、地上に出ている方の玄関に来客が来たことを告げる、いわば呼び鈴の役目を果たしている。
「? 誰か来たのか?」
俺たちは一旦作業を中断し、来客への応対にあたった。
ツリーハウスを駆け上り、玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは王国騎士団の制服に身を包んだ三人の若者であった。
「ベイル・オルランドだな?」
「は、はい」
真ん中に立つ若い騎士に尋ねられ、俺は答える。すると、
「君に聞きたいことがある。我々と来てもらおうか」
「えっ? えぇっ!?」
どうやら……騎士団からの呼び出しらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます