第93話 シャーロットのこれから

 スラフィンさんとローレンスさんは話し合いをするために校舎の中へと入っていった。


「一体……何があったんだろう……」


 俺たちには知る由もない――が、あえて知っている可能性があるとすれば、


「シャーロット、それにクラウディアさんも、何か知らない?」


 このふたりしかないわけだが……ふたりは揃って首を横へと振った。


「最近、お兄様が何やら大きな事件の調査に乗りだしているというのはお父様との会話から漏れ聞こえていましたが……具体的にどのような話かまでは知りません」

「私も同じですね」

「なるほど……でも、そうなると今回の薬草農園の件が絡んでいるかもしれないな」


 何せ、今回の事件の裏には霧の魔女がいた。

 原作でもある【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中では攻略難易度が激ムズに設定されている、あの霧の魔女だ。騎士団が調査に動きだしたとしても、何ら不思議なことはない。


 ……となるとエーヴァ村やネイサン村での事件ともかかわりが出てきそうだな。



 薬草を届けるという本来の目的を果たした俺たちは、せっかく来たのだからというキアラの意見を採用し、王都を見て回ってからダンジョンへ戻ることにした。


 ――ここで、ひとつ問題点が浮上する。


「…………」


 無言でこちらをジッと見つめるシャーロット。

 完全に、誘ってほしそうな目をしている。


 俺としても、みんなと意気投合してすっかり馴染んだシャーロットとの別れは辛い。結局、婚約破棄をした理由については知ることができなかったが、あの頃のシャーロットを知っている身から言わせてもらえば――彼女はとても良い子だ。またこの学園に来たときは、過去のことも含め、ゆっくりと話をしたい。


「シャーロット……」


 これは今生の別れではない。

 またすぐに会える。

 そのことを伝えようとしたのだが、


「――ましたわ」


 俯いたまま、シャーロットは何事かを呟いた。

 よく聞き取れなかったので、顔を近づけてみると、


「わたくしもみなさんと一緒に行くと決めましたわ!」


 至近距離での大絶叫に思わず悶絶する。

 ――って、なんだって?


「い、一緒にって……それはいろいろとまずくないか?」


 兄であるローレンスさんでさえ、あのようなド派手なリアクションだったのだ。両親がこのことを知ったらどうなるか……考えただけで恐ろしい。


「お願いします、ベイルさん……」


 強気に言い放ったように見えたシャーロットだが、その心は不安でいっぱいだったようだ。

 俺たちだけでは判断しかねるので、クラウディアさんへ視線を向ける。すると、彼女はひとつため息をついてから告げた。


「お嬢様がそれを望んでいる以上、メイドである私に否定する権利はありません」


 それはそうかもしれないが……それじゃあ根本的な解決になっていない。

 せめて、ご両親にこのことを教えておかないと。貴族という立場上、黙って学園から消えるわけにはいかないからな。

 俺がそのことを告げると、シャーロットは「それもそうですわね」と思ったより素直に受け入れてくれた。


「学園でもいろいろと手続きが必要になってくるでしょうし、しばらくお時間をいただきますわ」

「は、はあ……」


 シャーロットはすでに移住が決まったみたいな口ぶりだが……果たして、ブラファー家の当主がそれを許すかなぁ。


 ――というわけで、俺たちとシャーロット(それとクラウディアさん)は一旦別れ、それぞれの目的地に向かって歩きだしたのだった。

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