第92話 怒りのローレンス

 思わぬところで思わぬ人物と出会った。

 ある意味……ディルクより厄介な人だ。


「貴様ぁ……妹に何を……」


 怒り心頭のローレンスさん。

 原因は彼の妹であるシャーロットにあった。

 まさかこんなところで出くわすとは思ってもみなかったシャーロットは、昨夜ツリーハウスに泊まったことをいろいろと大事な部分を端折って説明――結果、原作ゲームではシスコンで有名なローレンスさんの逆鱗に触れた。


「その首を跳ね飛ばしてやろうかぁ!」


 ダメだ。

 とても話し合いに持っていける空気ではない。

 すると、ハノンとシモーネのふたりが俺の前に出る。

ふたりで俺を守ってくれるつもりらしいが、ここでブラファー家の長男ともめ事を起こすのは望ましくない。なんとかして暴走するローレンスさんを落ち着かせ、誤解を解かなくては。

その時、


「なんの騒ぎだい?」


 事態を聞きつけたスラフィンさんがやってくる。


「ローレンス・ブラファー? なぜここに?」

「……いえ、別件でこちらを訪れたのですが、我が妹がこちらの男に――」

「ベイルが? ……ならば、心配する必要はない」

「どういう意味ですか?」

「彼の家には私の娘も世話になっている。というか、そこにいる他の三人も、ベイルと同じ屋根の下で生活をしているんだ」

「なっ!?」


 自然な流れで火に油をぶっかけたスラフィンさん。


「おのれぇ……うちの妹だけでなく、こんなにも大勢の女性を連れ込むとは……!!」

「ご、誤解ですよ!」


 確かに共同生活はしているけど、ローレンスさんの想像しているような関係では断じてない――と、胸を張りたいところだが、字面だけ見るとなかなか信用してもらえそうにないな。


 一向に消える気配のない、ローレンスさんの怒りの炎。

 だが、ここでとうとう切り札とも言うべき人物から最後通告がなされる。


「いい加減にしてください、お兄様。……聞く耳を持っていただけないのなら、わたくしにも考えがあります」

「か、考え?」


 不穏な空気を察したのか、途端にローレンスさんが大人しくなる。


「そうですねぇ……とりあえず、一年間の会話禁止、とか?」

「!?」


 仮定の話とはいえ、シャーロットから罰を言い渡されたローレンスさんはその場に膝から崩れ落ち、放心状態となる。とりあえず、怒り狂った状態からは一歩前進――と見ていいのだろうか?


「やれやれ……これで少しはまともに話せそうだ」


 大きく息を吐きながら語るスラフィンさん。

 あっ、やっぱりそれでいいんだ。


「な、なんというか……個性的なお兄さんですね」

「個性的というか、病的なシスコンというか……でも、腕は確かよ。学園史上最高の騎士って呼び声もあるくらいだから」


 ああ、そういえばゲームでもそんな風に呼ばれていたな。



 しばらくして意識を取り戻したローレンスさんは、「こほん」と気まずそうに咳払いをした後、


「取り乱した……すまない」


 とだけ俺に告げた。

 一応、謝罪をしなければという気持ちがあるようだが……相手が相手だけに、複雑な心境のようだ。

 気を取り直して、話を進めよう――と、思ったら、俺よりも先にまずスラフィンさんが口を開いた。


「ローレンス、この学園に何の用があって来たんだい?」

「それは……学園長に用事が――」


 そこまで言うと、ハッと何かに気づいて口を閉じた。

 ローレンスさんは「詳しくはどこか落ち着いて話せる場所で」とスラフィンさんとの会談を希望。当然、その場に俺たちは不要となるため、今日のところはこれで帰ることにした。


「お兄様……」

「シャーロット……また、近いうちにゆっくり会おう。――ベイル・オルランド。君ともな」


 さすがにここは仕事を優先させるローレンスさん。

 しかし……一体何の用事だろう。

 気になるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る