第91話 告白
俺たちの前に現れた人物――それは、シャーロットの兄であるローレンス・ブラファーであった。
このローレンスという人物……実は、原作である【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中では、あるイベントにおいて重要なポジションを担っている。
……待てよ。
ゲームの中でも、ローレンスさんに妹がいるという事実は言及されていた。それ自体は問題ではない。厄介なのは――その妹に対しての感情だ。
「!? ベ、ベイル・オルランド……!」
そんなことを考えているうちに、ローレンスさんが俺に気づく。
幼少期の記憶――つまり、まだ俺とシャーロットが婚約者であった頃、俺はローレンスさんと会った記憶がある。ところが、その時のローレンスさんの俺に対する印象はあまりいいものではなかった。まだ子どもの俺でもハッキリと認識できるくらい露骨な態度だったからな。
――なぜ、ローレンスさんが俺に対してそんな態度を取ったかというと、
「貴様……なぜここにいる!」
ローレンスさんの顔つきが一変。
先ほどまでの穏やかで優しそうな表情から、宿敵と相対した時のような形相――いや、ローレンスさんの性格を考えたら、そうなってしまうのも無理はないか。
「お、お久しぶりです」
「ふん! 妹にあのような仕打ちをしておいてよくそんなことが――うん? 待てよ」
何かを思い出したらしいローレンスさんは、話を途中で切り上げ、思案するように顎へ手を添える。
「ベイル・オルランド……貴様はオルランド家を追いだされたと聞いたが?」
「は、はい。なので、今は野菜や薬草を育てて暮らしています」
「それではまるで農夫ではないか!?」
まるでというか、農夫そのものなんですけどね。
「! そういうことか……分かったぞ!」
ここまでの情報を整理したローレンスさんは、自信満々にそう告げた。
「婚約破棄をしたシャーロットにすり寄り、再び貴族へ返り咲こうとしているのだな!」
「あ、いや、そういうわけでは……」
「何っ!? では、今頃になってシャーロットが惜しくなったか!」
「え、えっと……」
「だが、貴様の気持ちは分からなくもないぞ。――なぜなら! シャーロットは世界一可愛いからな!!!!」
うーん……相変わらずだな、ローレンスさん。
周囲から将来を期待される若手騎士。
超絶イケメンであり、頭脳明晰、気配りもできる完璧超人――だが、ここにシャーロットが絡むと途端にポンコツと化す。
ローレンス・ブラファーという人物をひと言で例えるなら……「《超》がつくほどのシスコンなのだ。
「お兄様! いい加減にしてくださいまし!」
ここへ来て、ようやく我に返ったシャーロットが猛抗議。
「わたくしはいつまでも子どもではありませんわ!」
「し、しかし……」
「昨日だって、学園からの依頼でベイルさんのお家に行き、一晩過ごしてきましたわ!」
「!?!?!?!?」
あっ。
これダメなヤツだ。
シャーロットめ……焦っているせいか、いろいろと情報を端折ってしまい、なんだか俺の家でいかがわしいことをした挙句に大人となったみたいなニュアンスに聞こえる。
こちら側からも抗議の声が出そうなところだが――全員の反応見る限り、俯いて耳まで真っ赤にしているキアラ以外は至って普通。三対一でなんとか見逃されたか。
クラウディアさんはどう見ても笑いをこらえているって表情しているし……収拾がつかなくなる前になんとかしないと。
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