第90話 事情説明

 うっかり口を滑らせてしまい、俺とシャーロットが何かしらの「特別な関係」であることがみんなに気づかれてしまった。

 ただ、シャーロット自身が俺について一切言及していないため、そこが引っ掛かっているようだった。

 つまり、俺自身はシャーロットとの関係を知っているが、シャーロットの方は知らないといういびつな構造になっているということになる。


 というわけで、マルティナたちだけでなく、シャーロットにも詳しく説明をするため、俺以外で唯一事情を把握しているクラウディアさんも同席し、これまでの流れを端的に説明していく。

 正直、俺が知っているのはシャーロットと「婚約関係にあった」という関係性のみ。 

 その後、どうして婚約破棄にまで話が至ったのか――経緯については、一切の情報を持ち合わせていなかった。


 俺とシャーロットの関係性を知った四人は、


「「「「…………」」」」


 絶句。

 言葉が出てこない。

 ……無理もないか。

 一方、当事者でもあるシャーロットの反応はというと、


「そうでしたの……」


 こちらも困惑の色が見て取れる。

 しかし、


「なんとなく……先日学園でお会いした時から、『もしかしたら』という気持ちはありましたの」

「そ、そうだったのか?

「えぇ。それくらい、小さい頃のわたくしにとって、あなたの存在が大きかったということですわね」


 ……あれ?

 なんか、シャーロットの雰囲気が変わった?

 妙に落ち着き払っているような?

 クラウディアさんの話では、俺との婚約破棄が正式に決まってからふさぎ込んでいたという。そのため、「どうして婚約破棄したのか」と問い詰められてもおかしくはないと覚悟していたのだが……


「シャ、シャーロット……」

「そんな顔をしないでくださいまし」


 シャーロットの反応は、俺の予想とはまるで違っていた。


「こうして……またあなたに会えた――その事実だけで十分ですわ」


 前向きに語ってみせるシャーロットだったが、その表情は冴えない。なんだか、無理にそう言い聞かせているような気がしてならなかったのだ。

 どうやらクラウディアさんも同じような感想を抱いたようで、心配そうに「お嬢様」と呟くと、彼女の細い方にそっと手を添えた。そこへ、自身の手を重ねるように置くシャーロット。


 何やら……訳ありって感じだ。

 恐らく、クラウディアさんはまだ秘密にしていることがある――きっと、すぐには語れない、大きな秘密が。


 その時、



「む? シャーロットか?」


 

 若い男の声がした。

 それに反応して視線を動かすと、声の主がこちらへと歩み寄ってきているところであった。

 年齢は二十一、二歳くらいか。

 どことなく、シャーロットに似ているようだが、もしかして――


「ロ、ローレンスお兄様」


 やはり、シャーロットの兄だった。


「浮かない顔をしているが、何かあったのか? それに……君たちは学生というわけではないようだが? 関係者以外がここで何をしている?」


 ローレンス・ブラファー。

 この人……知っている。

原作である【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の登場人物だ。

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