第86話 シャーロットの願い

【お知らせ】


 新作を投稿しました!


「引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて最後の教え子とともに小国の離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~」


 メインテーマは【スローライフ&開拓】!

 のんびりまったりしつつ、トラブルに巻き込まれてしまう主人公の明日はどっちだ!

※カクヨムコン7参加作品です。



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「はぁ~……いいお湯でしたわ~……」


 風呂上がり。

 シャーロットはクラウディアさんに髪を拭いてもらいながら、満足そうにつぶやいた。


「まったく……髪くらい自分で拭きなさいよ」

「ふふん! これも貴族特権というヤツよ!」


 それはちょっと違う気がしないでもないが……まあ、メイドであるクラウディアさんにとっては、それもまた業務のひとつというのも事実。それに、拭いている時は恍惚の表情を浮かべているから、問題なさそうだ。むしろ役得とか思っていそう。


 全員が風呂から上がると、交代で俺の番がやってくる。

 当然だけど、浴室はさっきの喧騒が嘘であったかのように静まり返っていた。

 そりゃそうだ。

 入っているのは俺だけだし……ちょっと寂しさを感じるが、だからといってみんなに「一緒に入ろうぜ!」とは言えない。今度、ウッドマンたちと入ろうかな。


 なんてことを思いながら、さっさと風呂を済ませる。

 戻ってくると、すでに食事の準備が始まっていた。


 ――しかし、


「あれ?」


 キアラとシャーロットの姿が見えない。

 クラウディアさんは料理のことでマルティナと談笑中。

 シモーネはせっせと食器出しをし、ハノンは専用コップで果実ジュースに舌鼓を打っている。


 その時、ふと視線が窓の外へと向いた。 

 すると、湖のほとりにたたずむキアラとシャーロットを発見する。


 こちらも話し込んでいるようだが……俺はその内容が気になり、ふたりを呼びに行くと告げて外へ出た。

 すでに空は暗くなりはじめ、静寂がダンジョン内を包んでいる。

 岩壁に埋まった発光石の淡い光に照らされるふたり。

 

 ……なんだか、近づきにくいな。

 俺のことに気づいていないみたいだし。

 恐る恐る距離を詰めていくと、やがてふたりの会話が聞こえてきた。


「学園の寮にはお戻りになりませんの?」

「まあ……そのつもりだけど……ここの居心地がいいから」

「そのようですわね」


お手本のような、とりとめのない会話――と、思ったが、シャーロットはキアラがツリーハウスへ移住してきているのをここで初めて知ったらしく、少し驚いたような表情をしている。


「今日一日、ここで過ごしてみて、納得いたしましたわ。確かにここはとても住み心地のよいところみたいですね」

「何? あなたもここへ住んでみたくなった?」

「はい」

「えっ?」


 キアラとしては冗談のつもりだったようだが、シャーロットは大真面目に答える。さらにそのタイミングで、ふたりが俺の存在に気づいた。


「あら、ちょうどいいところで家主がいらっしゃいましたわね」

 

 そう言うと、シャーロットの方から俺に近づいてくる。


「そういうわけでして、わたくしもここでご厄介になりたいと思っているのですが……よろしいですか?」

「そ、それは……」


 上目遣いで迫られる。

 思わず視線をキアラへ向けると、彼女は静かに頷いていた。声にこそ出してはいないのが、「別に構わないわよ」って言っている気がする。

 なので、


「問題ない。歓迎するよ」


 俺はシャーロットを受け入れた。

 こうして、ツリーハウスに新たな仲間が加わったのだった。

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