第84話 お嬢様とツリーハウス
「というわけで、不本意ではありますが、このわたくし――シャーロット・ブラファーがこのツリーハウスに泊まってあげますわ!」
不本意とは言いつつ、その顔は満足感で艶々しているように見える。
クラウディアさんがいるとはいえ、セキュリティ面では問題ないのだろうけど……シャーロットはブラファー家のご令嬢。よく許可が下りたものだ。
「では、お部屋へ案内してくださる?」
「あ、あぁ」
流れに乗っかったまま、俺は四階の部屋へシャーロットを案内する。
「あら、思ったよりずっと素敵な部屋ですわね」
「当り前じゃない。ここはベイルの造ったツリーハウスなのよ?」
「どうして何もしてないキアラさんが偉そうなんですの?」
「なんですって!」
にらみ合うシャーロットとキアラ。
しかし……本気でお互いを嫌っているから生まれる殺伐とした空気とは違う。
「シャーロットお嬢様にとって、キアラ様は本音で言い合える数少ないご学友なのです」
不思議に思っていると、クラウディアさんが少し離れた位置にいる俺たちだけしか聞こえないくらいのボリュームで教えてくれる。
そういえば、友だちがいないみたいなことを言っていたな、シャーロットは。そうなると、やっぱりライバル関係っていうのが一番しっくりくるのかな。
でも……うろ覚えだけど、子どもの頃のシャーロットって、もっと素直な性格だと思ったんだけどな。
権力の差というか、そういったものを知ったから、少し変わってしまったのかもしれない。
ふたりのにらみ合いはしばらく続いたが、
「! あら、窓の外もいい景色ですわね!」
ふと目に入った風景に反応したシャーロットは、窓の方へと走っていく。このツリーハウスの四階なら、地底湖が一望できる高さ――陽光差し込む地底湖は、ダンジョンという場所に似つかわしくない、神秘的な美しさを持っていた。
シャーロットは、すっかりその景色が気に入ったようだ。
「あなたたちは毎日このような景色を見られますのね」
そう語るシャーロットの横顔は、どこか寂しそうに映った。
なんとなく……初めて会った頃のキアラに似ている気がする。
もしかしたら、直接口にしてはいないけど、あのふたりが衝突しつつもライバル関係でいられるのは、似たような境遇にいたからかもしれない。
だから、自分を差し置いて友だちができてしまったことに焦ったのかも。
「……シャーロット」
「何かしら?」
「これから夕飯の準備をしようと思うんだけど……手伝ってくれないか?」
「わたくしが?」
「うちではみんなで協力してご飯を作るのがルールだからね」
「……分かりましたわ」
意外にもあっさり受け入れてくれたシャーロット。
最初は「なんでわたくしが労働しなくてはいけませんの!」くらい言うかと予想していたんだが、いい意味で裏切られた。
「よし! そうと決まったら農場から野菜を収穫してこないとな!」
「えっ!? 今から収穫するんですの!?」
「その通り! さあ、手伝ってくれよ、シャーロット」
「え、えぇ……」
というわけで、俺とシャーロットとクラウディアさん、それに農場を管理するハノンが畑で野菜を収穫し、マルティナ、キアラ、シモーネの三人が料理の準備に取りかかる。
お嬢様であるシャーロットにとって、初めて尽くしとなるだろうツリーハウスでの一日が始まった。
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