第82話 学園への帰還

 学園にある薬草農園を全滅させた犯人は、原作ゲームである【ファンタジー・ファーム・ストーリー】においてボスキャラのひとりに数えられる霧の魔女であった。


 水竜シモーネの巨体と咆哮を目の当たりにした霧の魔女は、さすがに計算外の事態であったらしく、そそくさと退散していった。

主犯格を取り逃がしたものの、屋敷の周りにいた兵士たちは、スラフィンさんが声をかけたことで応援に駆けつけた王国騎士団によって全員捕えることができた。彼らから何か事情を聞きだせれば、ヤツの狙いも分かるだろう。


 一方、意識を失っていたシャーロットやウィリアムスさんたちは、キアラの診断によって一種の催眠魔法をかけられたことが原因であることが発覚。

騎士団の方々の力を借りて全員を学園の医務室へと運ぶと、そこへスラフィンさんがやってくる。それから手製の飲み薬を処方し、なんとかみんな意識を取り戻すことに成功したのだった。


「……わたくしは一体何を――はっ! 犯人はどうなったんですの!」

「とっくに追っ払ったわよ」


 元気にベッドから起き上がるも、状況を把握しきれていないシャーロットへ、キアラが丁寧に説明していく。マルティナたちも、シャーロットが無事な様子を見てホッとした様子だった。

 

 女子たちでにぎわうベッドの横――もうひとつのベッドでは、ウィリアムスさんが目覚め、医務室の窓から見える変わり果てた農園の姿を見て大きなため息をついていた。


「犯人グループは摘発できたが、ヤツらを裏で操っていたあの魔女を捕えることはできなかったんだよなぁ……」


 ウィリアムスさんは、大切に育ててきた農園をめちゃくちゃにした犯人を捕らえるようと躍起になっていた。

その結果、冷静な判断力を失って屋敷内へ突撃。

しかし、向こうはそうなると踏んでいたのか、綺麗にカウンターを決められる形になったもんなぁ……やりきれない気持ちは強いだろう。

 

 同じく農園を管理する者として、かける言葉が見つからない。

 俺には竜樹の剣があったから、肉体的・精神的な苦労はウィリアムスさんに比べると少ない。それでも、今のダンジョン農場に対する愛着は強いのだから、彼の立場に立ってみると、その悲しみは計り知れないものがある。


「俺としては、あの農園で神樹の研究をするつもりだったんがなぁ」

「神樹?」

「ああ。――もっとも、噂じゃ凄腕の魔女がすでに着手しているらしいから、後手に回っちまうけど」


 神樹、か。

 あればっかりは、俺の竜樹の剣をもってしても再現不可能。

 ……そもそも、ゲームにそんな要素なかったし、この世界の完全オリジナルってことなのかな。

 

「しかし、弱ったな。新しく薬草を仕入れなくちゃいけないんだが……ここ最近は不作続きで高騰しているらしいから、学園がどれだけ予算を割いてくれるか」

「あっ、それだったら――」


 悩めるウィリアムスさんへ、俺はある提案を持ちかけた。

 それは、


「うちで育てている薬草を譲りますよ」

「!? ほ、本当か!?」


 俺はダンジョン農場で育てた薬草を寄付しようと考えたのだ。

 まあ、スラフィンさんには世話になっているし、ウィリアムスさんからは薬草に関する知識をもっと教えてもらいたい。

 今後のことを考えての提案だった。



 その後、俺はスラフィンさんにもこの提案を話す。

 ただ、スラフィンさんはさすがに値上がりしている薬草をタダでもらうのは申し訳ないと言い、最初は断られた。

だが、薬草に関する知識をご教授願いたいと話すと、さまざまな書物との交換及び、常時薬草農園への出入りを許可するという待遇で受け入れてくれた。


 こうして、俺たちは学園とより強いパイプを持つことができたのだった。

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