第81話 霧の魔女

 屋敷の中で消えたウィリアムスさんたちを捜すとともに、一連の騒動の首謀者がいるかもしれないと警戒しながら進んでいく俺たち。

 やがてたどり着いたのは屋敷の最奥部。

 そこへとつながる扉を開けると――中には、


「! ウィリアムスさん!」


 まず真っ先に飛び込んできたのはぐったりしているウィリアムスさんだった。よく見ると、学園関係者も全員いる。

魔法か、それとも薬草か、どちらかまでは判断できないが、意識を混濁させられているようで、俺が名前を呼んでもまったく反応しない。しかし、わずかながら口元が動いていることから呼吸はできているらしく、死んではいないようだ。



「あらあら~? 他にも侵入者がいるとは思いましたけど、落とし穴で隔離してあったはずなのに~?」


 

 間の抜けた声が響く。

 その正体は――


「! 女性……?」


 二十代半ばほどの若い女性が、部屋の奥に置かれた椅子に座っている。髪や服の色はすべて真っ黒。だからなのか、声を出すまで存在に気づかなかった。手には杖を持っていることから、女性は魔法使いだと思われる。


「どういう手を使って抜け出したのかは分かりませんが、大人しくしていてもらわないと困りますね~」

「言いたいことはそれだけですの?」


 のんびり口調の女性に対し、苛立った様子で前に出たシャーロット。

 早くも臨戦態勢だ。


「さっさとみんなを解放して立ち去りなさい!」

「血の気が多い娘ですね~」


 女性は椅子から立ち上がり、杖を構えた。

 ――って、あの杖……どこかで見たことがあるデザインだ。

 

「あっ!」


 思い出した。

 あの杖の持ち主は――《霧の魔女》と呼ばれる【ファンタジー・ファーム・ストーリー】におけるボスキャラのひとりだ。

 しかし、彼女が登場するのは割と最近の話。

 ここはゲームでいうところの序盤……こんな場所に出てくるキャラではないと思うのだが。


 この霧の魔女だが、攻略自体はかなり難しいとされている。

 設定では世界でも上位に入るとされる魔女となっており、なんらかの目的でプレイヤーの行動を妨害してくる。ゲームの最新ストーリーでも、その真の狙いについては明かされておらず、ファンの間では壮絶な考察合戦が行われていた。


 つまり――めちゃくちゃ強いってことだ。


「ま、待て! 迂闊に近づくな、シャーロット!」


 勢いよく立ち向かうシャーロットを止めようとするが――間に合わなかった。


「うるさい子って嫌いなんでよね~」


 霧の魔女はニコニコと愛想よく笑いながら、シャーロットへ魔法をかけた。

 その直後、意識を失った彼女はその場に膝から崩れ落ちる。


「シャーロット!」


 今度は突然倒れたシャーロットを心配してキアラが駆け寄る。だが、そこに再び霧の魔女が――


「くっ!」


 俺は咄嗟に竜樹の剣を使い、屋敷の地下に張り巡らせた神種の蔓で霧の魔女を攻撃する。

 だが、間一髪のところで気づかれ、こちらの攻撃はすべてかわされた。

 魔法使いのくせに、なんて身体能力だ。


「竜樹の剣……面白い武器ですね~」


 まだまだ余裕たっぷりといった様子の霧の魔女。

 長期戦は不利だと踏んだ俺は――切り札を召喚する。


「シモーネ!」

「はい!」


 俺の狙いを察知したシモーネは、すぐさまドラゴン形態へと変身。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」


 練習の成果が垣間見えるド迫力の咆哮。

 さらに、その巨体で屋敷は半壊した。


「! ドラゴンがいるとはさすがに想定外ですね~」


 これには霧の魔女も困惑を隠せない様子。

 

「計画は無事遂行できましたし、今回のところはこれで立ち去りましょうか~」


 状況が不利と判断すると、彼女の周囲に霧が立ち込め、そのまま姿を消した。

 さすがはボスキャラ……去り際も心得ているな。



 とりあえず、当面の脅威が消え去ったことで、俺たちはホッと胸を撫で下ろした。

 あとは、シャーロットやウィリアムスさんたちを元に戻さないと。

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