第80話 屋敷の謎
血気盛んに乗り込んでいったウィリアムスさんたちを追って、俺たちも屋敷の中へ。
すると、
「? 妙に静かですわね……」
シャーロットも同じ疑問を持ったか。
そう。
あれだけ大騒ぎをしながら複数の人間が殴り込んでいった割に、屋敷の中は異様に静かだったのだ。本来なら、ドタバタ大騒ぎしながらの捕り物劇があってもおかしくはないのに。
静寂という異様さ。
現状に違和感を覚えつつも、俺たちはさらに奥へと進んでいく――と、
「ちっ! まだいやがったか!」
偶然部屋から出てきた男と鉢合わせた。
男はすぐさま剣を抜くが、それよりも先にマルティナが動いた。
「はっ!」
短い金属音のあと、男の手にしていた剣は宙を舞って天井へと突き刺さる。あの一瞬のうちに、マルティナは自身の剣で男の剣を弾き飛ばしたのだ。武器を失った男だが、それに気づく前に、今度はキアラが立ちはだかる。
「大人しくしなさい」
右手を男へとかざした――直後、その手から放たれた魔力が男の意識を奪う。
「まあ、こんなものね」
「す、凄い……って、もしかしてその人――」
「眠らせただけよ」
そ、そりゃそうだよな。
「さすがです、キアラちゃん」
「マルティナの先制攻撃が成功したからよ」
マルティナとキアラは互いの健闘を讃えるようにハイタッチを交わす。さすがは普段からダンジョン探索をしているだけあって、息ピッタリだ。
「……シモーネよ。ワシらも負けてはいられんな」
「えっ? わ、私には無理ですよぉ」
「心配するな。お主が変身して相手を威嚇し、その隙にワシが仕留める。実に完璧な作戦じゃろ?」
むしろシモーネひとりで十分な気がする。
最近は咆哮の特訓にもめちゃくちゃ熱が入っているし、下手したらその雄叫びだけで失神する者さえいるかも。――ただ、人間の姿でそれをやっている時は、「がおー」って感じで怖いというより可愛さが先行してしまうけど。
さて、これからどうするか。
とりあえず、眠らせた男は部屋に戻しておいたけど、目が覚めたら騒ぎだすだろう。
今後の行動について考えていると――突然、体を浮遊感が襲った。
「「「「「「えっ?」」」」」」
それは俺だけでなく、他のみんなも同じようで、同時にそんな間の抜けた声を出してしまう。だが、声を発した段階ではもう手遅れだった。
なんと、さっきまで何の変哲もなかった廊下が忽然と消え、俺たちは突然現れた謎の穴に落ちていったのだ。
視線を下に向ければ地面が見える。
高さはそれほどないが、打ちどころが悪ければ最悪の事態も想定できる――と、
「そりゃ!」
ハノンが魔力を放ち、地面に大きな花を咲かせる。その柔らかな花びらがクッションとなって、俺たちは地面への激突を避けることができた。
「た、助かったよ、ハノン」
「礼はいらん。……しかし、ワシらはまんまと敵の罠にハマったらしいのぅ」
「あぁ……」
見上げれば、さっきの穴がまだ見える。
周囲の壁を登って出られる高さではないし、そもそも壁に手や足をかけられそうな場所がない。
――だったら、
「今度はこいつの番だ」
俺は竜樹の剣へ魔力を注ぎ、この落とし穴からの脱出を試みる。
ここでも神種の出番だ。
ツリーハウスを造った時と同じ種を植え、その蔓を掴んで穴から抜けでる。さらに、こいつには屋敷中に根を張らせ、敵の位置を把握する。……最初からこうしておくべきだったな。
「敵はこっちが思っているより厄介な相手みたいよ」
「恐らく、同じ魔法使いでしょうが……わたくしの方が数倍優れていることを証明してみせますわ」
キアラとシャーロットはこの屋敷の主へ対抗心を燃やしていた。
あっさり罠にハマってしまった形だし、そのリベンジって意味もあるのだろう。
ふたりが闘志を燃やしている頃、ようやくこの屋敷の主と思われる強い魔力を持つ人物の場所が特定できた。
そこに、先陣を切っていったウィリアムスさんたちもいるはず。
「行こう」
俺たちはさらなるトラップに注意しながら、目的地へと進んでいく。
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