第79話 犯人は?

 学園近くにひっそりとたたずんでいた謎の屋敷。

 そこに出入りしていたのは人相の悪い複数の男たちであった。

 ……俺は――いや、俺たちはヤツらに見覚えがある。


「どうかしたのか?」


 俺たちが顔を引きつらせているのを見たウィリアムスさんが尋ねてきた。


「今、屋敷に入っていった連中ですが……以前、ネイサン村を襲った犯人です」

「! ネイサン村……あったな、そんな事件も」


 さすがにウィリアムスさんの耳にも届いているか。

 王国内でも一、二を争うほど農業が盛んに行われているネイサン村だが、そこを武装した男たちが襲撃し、村人を拘束すると広大な畑をすべて焼き払おうと計画していた。その時は、ドラゴン形態となったシモーネのひと吠えでヤツらを追っ払えたわけだが……まさかここでも悪さをしていたなんて。

 俺が取り逃がしてしまったことで、余計な被害が出てしまった。

 それをウィリアムスさんへ説明すると、


「その話は聞いている。……君は何も悪くない。気にするな。悪いのは性懲りもなく悪事を働く連中にある」


 ウィリアムスさんは、そう言って慰めてくれた。

 正直、とても救われたよ。


 そんなウィリアムスさんが大事にしていた学園の薬草農園――それを台無したヤツらをこれ以上野放しにはしておけない。

 すぐにでも乗り込んで騎士団へ身柄を差し出そうとしたが、その時、強力な魔力が屋敷から漂ってきた。


「「「「「!?」」」」」


 俺たちだけでなく、同行した学園関係者たちも、その魔力が放つ異様な気配に反応を見せた。


「な、なんですか、今の魔力」

「およそ人間のものとは思えんのぅ……」

「肌が粟立ってきたわよ」

「あわわわ……」


 女子組にも大きな動揺が走っている。

 となると、やはり連中を裏で仕切っていた黒幕がいる――それも、今現在あの屋敷の中に。


 だが、ここで迂闊な行動はとれない。

 ネイサン村にいた男たちが関与しているということは、木材不足のトラブルに見舞われたエーヴァ村の事件にもかかわっている可能性が高い。


 巨大カミキリムシ型のモンスターを操れるというなら、その実力は俺たちが想定していたよりもずっと強いだろう。

 そんな相手に、その場の勢いだけで挑もうとしても無駄だ。勝敗以前に、さっさと逃げられてしまうかも。

 何もかもが未知数の相手を前に、俺は慎重な判断を下すべきだという結論に至ったのだが、それを口にする前にウィリアムさんが動いた。


「あの屋敷に黒幕がいる! 乗り込んで取り押さえるぞ!」

「あっ! ちょっと!」

 

 頭に血が上ったのか、探知魔法の存在を忘れ、ウィリアムさんは学園関係者を率いて屋敷へと突撃していった。

 ただ、ここにいる人々も、名門魔剣学園の関係者――ということは、こちらもかなりの実力者揃いということになる。後手に回ってしまうより、かえってこっちの方がよかったのかもしれない。

 

「ど、どうしますか、ベイル殿」

「あたしたちも踏み込む?」

「…………」


 マルティナとキアラに最終的な判断を任された俺だが……そうだな。

 こっちにはハノンにシモーネもいる。

 もしかしたら、このようなチャンスはもう来ないかもしれない。


「行こう!」


 俺がそう言葉をかけると、四人は一斉に頷く。

 こうして、ウィリアムさんたちからは少し遅れて、屋敷へと乗り込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る