第78話 追走
ついに掴んだ犯人の手がかり。
俺はそれをスラフィンさんとウィリアムさんに伝えた。
「本当か!?」
「すぐに調査へ向かわせよう」
驚くウィリアムさんに対し、スラフィンさんは冷静に次の行動を指示。
しかし、こうなってくると、もしかしたら、あの小屋のトラップは発覚を遅らせるためのダミーだった可能性も出てくるな。学園関係者の目をそちらに向けることで、逃走時間を確保するための時間稼ぎだったとか?
ともかく、神種の力で魔力を追えるようになったため、犯人確保のため数人の職員を引き連れて追走を開始した。
薬草農園に残された魔力の残滓を追いかけて、俺たちは学園の敷地が出た。
「敵との距離はどれくらいある?」
「この感じですと……それほど離れてはいないようです」
竜樹の剣から伝わる感覚で、標的とのおおよその距離感が測れる。
この機能のおかげで、遭遇するまでに心の準備を整えることができた。
しばらく森を進んでいると、マルティナが何かを発見した。
「! あそこに何か建物がありますよ」
周囲に敵がいるかもしれないので、声のボリュームを抑えつつ発見した物について報告をするマルティナ。その指さす方向には確かに建物の屋根が見えた。森の中に忽然と現れたそれは、なかなかの広さがある屋敷のようだ。
「こんなところに屋敷って……ご存じでしたか?」
「い、いや、初めて見たよ」
ウィリアムさんや他の関係者ですら知らない謎の建築物。
学園からそれほど離れていない位置になりながらも、これまでその存在を確認されなかった――この事実から、俺はある仮説を立てる。
「あの屋敷……ただの建物ってわけじゃなさそうですね」
「と、いうと?」
「普通に建てたんじゃないって言いたいんでしょ? ――たぶん、魔法によって造り出された代物よ」
俺の考えをキアラが代弁してくれる。
「となると……相当な使い手のようだな」
「えぇ。――うん?」
俺はある異変を感じて足を止める。
それは、竜樹の剣から流れる魔力を通して動く蔓が突然動きを停止したからだ。
「なんだ? 何か問題があったか?」
「……あそこから先には探知魔法が仕掛けられています。一歩でも足を踏み入れたら、侵入者がいると気づかれる仕組みのようです」」
「なんだと……」
自身の存在は近づくことでしか目視できない認識阻害魔法で隠し、その周囲には探知魔法で侵入者を知らせる――かなり用心深いな、相手は。
「小賢しいマネを……」
犯人の潜伏先と思われる屋敷を前にして、足踏み状態となる俺たち。
だが、場所は特定できた。
これでいくらでも対処はできるだろう。
と、その時、
「! 伏せろ。誰か来たぞ」
ウィリアムスさんが小声でそう指示を飛ばす。
慌てて、俺たちは近くの茂みに身を隠した。
その際、俺はシャーロットと同じ場所に身を潜めたのだが、
「あなた……やっぱり以前どこかでお会いしませんでした? 今よりずっと小さい時にどこかで――」
「き、気のせいだよ」
距離が近くなったことで、シャーロットが俺のことを思い出しかけている。
……元婚約者ってことはキアラたちにも伏せておいた方がよさそうだな。
もめるのは火を見るより明らかだし。
「そ、それより、犯人が姿を見せるかもしれないぞ」
「ですわね」
シャーロットはすぐに気持ちを切り替えて前を見る。
よかった……って、これじゃあ身が持たない。
犯人の姿を確認していなくなったら、すぐに離れないとな。
――で、その犯人だが、
「! あいつらは……」
予想外の連中が、俺たちの前に姿を現した。
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