第77話 第二の神種

 シャーロットの件についてはいろいろと考えなくちゃいけないことがありそうだけど、それは一旦置いておこう。

 今はハノンが見つけたという犯人の手がかりについてだ。

 急いで現場に到着すると、そこでは難しい顔をしたハノンと、そのハノンを囲むようにマルティナ、キアラ、シモーネの四人が立っている。全員、神妙な面持ちというか、なんだか不穏な感じのする顔つきをしていた。


「む? ようやく来たか、ベイル」

「ハノン、一体何を見つけたんだ?」


 俺が駆け寄ってそう尋ねろと、ハノンは黙ったまま地面を指さす。


「ここで何者かが魔法を使った形跡があるのじゃ」

「えっ!?」


 魔法?

 あの小屋に仕掛けられていたトラップを仕組んだ者と同一の魔力だろうか。

 詳しく調査してみる必要があるけど――


「よ、よく分かったな」

「ここを見るのじゃ」


 ハノンが示したその場所……最初はなんの変哲もない地面かと思ったが、ほんの一部だけ小さな円形状に草が折れている。


「これって……」

「恐らく杖の先端をここへつけたのじゃろう。それが気になって辺りを調べてみたら見事に引っかかったというわけじゃ」


 こ、こんな小さな変化に気づくなんて。

 口には出さないけど、意外と鋭い観察眼を持っているんだな、ハノンは。


「このワシを見くびってもらっては困るな、ベイル」

「! な、なんで!?」


 口に出していないのに、と続けようとしたら、


「お主はすぐ顔に出るからな」


 と返された。

 そんなはずはないと反論しようとしたのだが、他の三人が深々と頷いていたので何も言い返せなかった。そんなに顔に出やすいのか……これからはいろいろと注意をしなくちゃいけないな。


「つまり! その魔力を追えば犯人の居場所を特定できるというわけですわね!」


 高らかに言い放つシャーロット。

 ……存在を忘れかけていたよ。


「そ、そうだな。でも……追うって簡単に言うけど、そんなことできるのか?」

「へうっ!?」


 あ。

 そこまで考えていなかったってわけか。

 しょうがない。

 ここは神種の出番だな。


 俺は竜樹の剣に魔力を込める。

 

「何をする気なの、ベイル」


 こちらの魔力に気がついたキアラが尋ねてきた。


「さっきシャーロットが言ったことをするまでだよ」

「あ、あの子が言ったことって――えっ? まさか魔力を追うってこと? そんなことが可能なの!?」


 さすがは権威ある魔法研究家の娘。

 俄然興味を持ってくれたらしい。


「追うと言っても、詳細な場所まで特定できるかは運次第って感じかな」

「ど、どういうことよ」

「あくまでも、この魔力を使った張本人がどちらの方角へ移動したかって情報を仕入れることくらいだ」

「で、でも、どうやってその情報を手に入れますの?」

「こいつが導いてくれるよ」

「こいつ?」


 マルティナの質問に対し、俺は竜樹の剣の切っ先に現れた小さな種を指さしながら答えた。ただ、まだ種の状態であるため、初見のシャーロットお嬢様は怪訝な表情を浮かべている。他のみんなは見慣れた光景だから、「あぁ、なるほどね」といった感じでそれ以上は追及してこない。

 そいつを地面に向かって投げれば、あとは自然に地中へと潜っていき、あっという間に育つ。ツリーハウスの時にも思ったことではあるが、このスピードが神種のいいところだよな。

 

「さて、そろそろかな」


 俺がそう口にした直後、地面の一部がボコッと盛り上がる。

 そして、そこから大きな蔓が伸びてきた。


「ななななっ!?」


 驚くシャーロットを尻目に、キアラたちはノーリアクションで蔓を見つめる。いや、それどころか、


「なんじゃ、代わり映えせんのぅ」


 こんなことを言われる始末。

 確かに、いつもこんなんだけど――今回はちょっと違う。

 ほとんど痕跡が残っていない中、くっきりと魔力が色濃く残されている部分が少しでもあるのなら、追う手立てはあるんだ。

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