第75話 ボッチ令嬢の正体

 薬草農園を全滅させた犯人を捜している俺たちのもとに、頼れる(?)助っ人が加わった。


「さあ! このわたくしと協力して調査できることに感謝しなさい!」


 彼女の名前はシャーロット・ブラファー。

 自称キアラのライバルだという。


「元気な子ですねぇ」

「マルティナ以上にうるさいのぅ……」


 現場調査をしていたシモーネとハノンにもシャーロットお嬢様を紹介。

 しかし……ブラファー家というのは聞いたことがないな。

 この場合の「聞いたことがない」というのは【ファンタジー・ファーム・ストーリー】の中という意味で、元貴族であるベイル・オルランドとしては何度か耳にした記憶のある名前であった。


 ブラファー家。


 クレンツ王国でも指折りの大貴族。

 うちの父親とは因縁の相手ってことらしく、名前は聞いたことがあっても会ったことは――あれ?


「シャーロット……」


 なんだ?

 改めてこの名前を思い浮かべた時、なんだかちょっと懐かしい気分になる。もしかしたら、俺とシャーロットお嬢様は以前どこかで会っている?

 そんなことを考えていると、強烈な視線を背後から感じた。

 振り返ると、そこにいたのはシャーロット専属と思われるメイドさんだった。目がバッチリ合っている今も視線を外そうとしない……な、なんなんだ?


「あ、あの……」

「はい?」

「俺、何かやらかしちゃいましたか?」

「いえ、別に何も」


 あっさりと返されたが……とてもそんな感じには見えないんだよなぁ。

 気づかないうちに粗相をしてしまったか。


「ハノン、シモーネ、どうだった?」

「水質からは、特に何も分かりませんでした……」

「土壌からも手がかりになりそうなものは見つからなかったのぅ」

「そう……相手はかなり用心深いようね」

「もしかしたら、これが初めてじゃないかもしれませんね」

「手際の良さから見るに、マルティナの言う通りだわ」

「ちょっと! わたくしを差し置いて話を進めないでくださる!」


 息が合っているのか合っていないのかいまいち分かりにくいが、とにかく楽しそうにやっているのは伝わってくるな。

 ただ――


「…………」


 俺がみんなのやりとりを眺めていると、背後から伝わってくるメイドさんの圧というか……視線に込められた熱量が増している気がしている。

 これはやっぱり……只事じゃない。


「あ、あの、やっぱり俺――」

「覚えていらっしゃらないのですね」

「えっ?」


 もう一度振り返ると同時に、メイドさんからため息が漏れる。

 それはどこか期待を裏切られた時に感じる悲壮感のように映った。


「まあ、あの時はまだ小さかったですから、後先考えず、その場の勢いで言ってしまったという可能性も十分考慮していましたが……ここまで脈なしだとはさすがに想定外でしたね」

「え、えっと?」


 どういうことだ?

 メイドさんの言っている「後先考えず、その場の勢いで言ってしまった」――これは恐らく俺のことを指しているのだろう。

 だとしたら、俺は小さい頃に何をしたんだ?

 それも、シャーロット絡みで。


 ――シャーロット?


「あ」


 頭の中を稲妻が駆け抜けたような衝撃が襲う。

 シャーロット・ブラファー……思い出したぞ。


「その顔は……思い出されたようですね」

「あ、ああ……」


 そうだ。

 シャーロット・ブラファーは――俺の婚約者になるはずだった女の子だ。

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