第74話 謎のお嬢様、登場 

 ミネスト学園の薬草農園で起きた事件をより詳しく調査するため、俺たちはしばらく学園にとどまることにした。


 こうなってくれば、ディルクがどうとか関係ない。 

 学園にはキアラも通っているわけだし……このままでは学生たちに被害が及ぶ可能性がある。そうなる前に、策を練らなくては。


「とはいったものの……どうするか」


 水質管理のための小屋では、現在仕掛けられた魔法トラップを解除するため専門家たちが集まっている。

 そちらは任せるとして、俺たちは自分たちでやれる範囲の調査に動いた。

 手始めとして、竜樹の剣だけでなく、水竜シモーネやアルラウネのハノンにも協力を仰ぎ、薬草農園全体を一から調べ直して犯人への手がかりを探ることにした。


 土壌、水質――どちらからでもいい。

 何かヒントが出ればいいのだが。


「さて、それじゃあ私たちはどうしようかしら」

「聞き込みをしてみますか?」

「事件が起きたのは夜中だから、学生で何かを目撃したって情報は得られないんじゃないかしら」


 キアラとマルティナも、自分たちでやれることを模索していた――と、その時、


「あら? あらあらあらあら!」


 声に反応して振り返って見ると、そこには俺たちと変わらない年齢で、長い金髪をツインドリルにした女の子がいた。ミネスト学園の制服を身にまとっているところをみると、彼女はここの学生さんらしい。

 その横にはもうひとり女性がいた。

 しかし、こちらはどう見ても成人している――ていうか、あの格好からして、恐らくあの女の子専属のメイドさんだろうか。この学園は貴族の子どもたちが多く通っていると聞くし、ありえなくもない。

 ただ、普段からあのようにべったりとくっついているメイドさんは珍しいな。

 もしかしたら、貴族の中でも位が高く、護衛としての役割も果たしているとか?


「非常事態が起きたというので招集に応じてみれば、まさかあなたに出会えるなんて思いもしませんでしたわ――キアラさん!」

「うげっ……シャーロット・ブラファー……」

 

 意気揚々と登場した謎の女子。

 その姿を見た途端、キアラは露骨に嫌そうな顔をする。

 ……俺とディルクみたいな因縁があるのだろうか。


「もしかして、あなたもこちらへ呼ばれましたの?」

「……自主的に参加したまでよ」

「でしょうね! わたくしはどうしても懇願されてこちらへ来たわけですが!」


 勝ち誇ったように叫ぶシャーロットという名の少女。

 これはあれだ……ディルクとはベクトルの違う鬱陶しさがあるな。


 でも、懇願されたかどうかはさておいて、学生でありながら調査協力を要請されているということは、それなりに実力があるってことだろう。

 しばらくシャーロットの高笑いが農園に響いていたが、


「あら?」


 突然、その笑い声がピタッと止む。

 その視線はある一点に注がれていた。

それは――キアラの横に立つマルティナであった。


「あなたは? 見たところ、この学園の学生というわけではないようですが」

「あっ、私はキアラちゃんの友だちでマルティナと言います」

「!? と、友だち!?」


 マルティナの自己紹介を聞いた瞬間、シャーロットは顔を引きつらせ、その場に膝をついた。


「あ、あのキアラさんにお友だち……?」


 えっ?

 それにショックを受けているのか?


「わたくしはまだひとりもお友だちがいないのに!」


 魂の込められた叫び声が蒼穹に響き渡る。

 こうして、キアラへ対抗心を燃やすボッチ令嬢が新たに調査チームへ加わったのだった。

 ……大丈夫かな?

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