第73話 真相へ近づくために

「薬草農園の土壌を調べてみましたが……どうもその水に問題があるようです」

「水……水質に何か変化が起きたと?」

「そう考えるのが自然と思います」

「し、しかし……」


 ウィリアムさんは納得いっていない様子だった。


「もしも水源に何か仕掛けをしたとしても、この学園内でそのようなマネができるとは思えない」

「確かに……この学園には、貴族の子息や令嬢が多く通っている。そのため、警備体制も万全を期している――が」


 どうやら、学園長には思い当たる節があるらしい。


「徹底的な警備が敷かれているのは校舎や学生寮だ。正直、この薬草農園まで同じくらい厳重かと言われたら……」


 スラフィンさんはそこで口ごもる。

 ――無理もないかもしれない。

 仮に、ここの薬草に猛毒が盛られていたとしても、使用されるのはあくまでも研究のためであり、市場に出回ったりはしない。そもそも、ここにいは薬草に関してプロが揃っているのだから、すぐに見破られるだろう。


 だとしたら、犯人の目的は――純粋に農園の薬草を枯らすだけ。

 ならば、学生を狙うより幾分か難易度は下がるな。


「とにかく、一度水源を確認してみましょう」

「そうだな」

「こ、こっちだ」


 俺たちはスラフィンさんとウィリアムさんの案内で、異常が発生していると思われる水源へと向かった。



 学園にある薬草農園の水源は、敷地の隅にあった。

 近くを流れる川から引っ張ってきているらしく、水車付きの立派な小屋の中で管理が行われているらしい。


「うん?」


 管理小屋にたどり着いて真っ先に異変を感じ取ったのはウィリアムさんだった。


「妙だな……当直の職員がいるはずだが」


 小屋の中には管理者が寝泊まりできる部屋があり、そこで非常時に対処するための職員がいるはずだという。しかし、どこをどう見ても、そこに人らしい存在は確認できなかった。


「昨日の当直番は誰でした?」

「ダニーという男だ」


 もしかしたら、そのダニーさんに何かあったのかもしれない。

 俺とウィリアムさんが安否を確認しようと近づいた時だった。


「待って!」


 突如、キアラが叫んだ。


「その扉――トラップが仕掛けられているみたいよ」

「「えっ!?」」


 キアラの言葉を受けた俺とウィリアムさんは思わず飛び退く。


「……本当だ。これは恐らく、炎属性――扉を開けると、爆発する仕組みになっているようだ」


 何それ……怖っ!?

 もし、キアラが止めてくれなかったら大惨事になっていたかもしれないな。


「あ、ありがとう、キアラ」

「恩に着るよ」

「あ、あたしは別に……念のため、探知魔法で調べていたら見つけただけよ」

「だが、魔力としてはかなり微々たるもの……たぶん、仕掛けた側もまさかこれを勘づかれるとは思っていなかっただろう」

「それって、やっぱりこの小屋に何かあるから、丸ごと吹っ飛ばしてしまおうって魂胆ですかね?」

「調査すれば分かることだ」


 スラフィンさんは真相を究明するため、トラップの解除班を学園から呼び寄せることにした。一方、俺たちはウィリアムさんとともに小川の調査へと向かう。

 農園でやった時と同じように、竜樹の剣を地面に突き刺して調べると――


「……やはり、ここが原因のようですね」

「まさか水源をやられていたとは……くそっ!」


 ウィリアムさんは悔しそうに地面を殴る。

 あれだけの規模だ……被害総額もハンパないことになるだろう。


 問題は犯人についてだ。

 今後もこのようなことが起きないためにも、なんとかして犯人への手がかりを見つけないとな。

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