第72話 原因究明

 王都にあるミネスト学園。

 最初はキアラのついでに入れさせてもらっていたが、今ではすんなりと入れるようになった。

 馬車を預け、正門を通過し、校舎群を抜けて敷地の端っこにある薬草農園を目指して進んでいく俺たち。その際、懸念されていたディルクとの遭遇はなく、俺もみんなもホッと胸を撫で下ろしていた。


 やがて、問題の薬草農園に到着。

 そこで俺たちが目の当たりにした光景は――


「これは……ひどいな」


 思わずそんな言葉が漏れ出てしまうほどの惨状が広がっていた。

 辺り一面には、枯れ果てて茶色く変色してしまった薬草が並んでいる。これだけの量となると……いつも通りなら、さぞ美しい光景だったに違いない。今はそれが見る影もなかった。


「やあ、よく来てくれたね」


 薬草農園の有り様を前に呆然としていると、そこにスラフィンさんがやってくる。さらにその横には見たことのない顎髭をたっぷりと蓄えた中年男性の姿が。


「君が噂のダンジョン農夫か」

「えっ? あ、は、はい」


 ダンジョン農夫。

 初めて聞く呼ばれた方だけど、間違いなく該当するのは俺しかいないよな。

 

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はこの薬草農園の管理人をしているウィリアムだ」

「俺はベイルと言います」


 軽く自己紹介を済ませると、早速この惨状について詳しい説明を受けた。


「この農園は……一夜にして荒野へと変わっちまった」


 悲しげに語るウィリアムさん。

 信じられないよなぁ……というか、想像以上に規模も大きいし、一体犯人はどんな手口を使ったって言うんだ?


「やはり……魔法が使われたんですかね?」

「だが、この辺りに魔力の残滓は感じられない。これだけの規模の、それも魔力をまとった薬草を残らずすべて一夜に枯らしてしまうほどの大仕事を完遂するには、相応の力が必要になってくる」


 だよなぁ。

 と、いうことは、これを実行したヤツは魔法に頼らずこれだけの量の薬草を短時間で枯らしたことになる。


「……ちょっと、土壌を調べてみます」


 そう言って、俺は竜樹の剣を地面へ突き刺す。


「そ、その剣は……」

「竜樹の剣と言って――」

「!? あの竜樹の剣か!?」


 ウィリアムさんが驚きの声をあげる。

 ……あれ?

 もしかして初めてか――竜樹の剣の存在を知っている人に会うのって。


「これが本物……伝説とばかり思っていたが、まさか実在するとは」

「おかげで農作業が捗っていますよ」

「! そうか、グレゴリーの言っていた凄腕の農夫とは君のことだったか」


 グレゴリーさんとも知り合いだったのか。

 ていうか、腕のいい農夫って……なんか微妙に間違っている気がするんだが。


 そんな話をしつつ、調査を続けていると――ある事実に気がついた。


「む?」


 土中の様子がおかしい。

 これは……


「……ウィリアムさん」

「なんだ?」

「薬草栽培に水は欠かせませんよね?」

「もちろんだ。ここでは長年にわたり、自動で水を循環する装置が置かれている。特に水には気を遣っているからな」

「その水なんですが……水源はどこから?」

「何っ? どういう意味だ?」


 俺は竜樹の剣を引き抜くと、ウィリアムさん、スラフィンさん、そして他の四人へ、この薬草農園に起きたと思われる事象について説明を行った。

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