第71話 ベイルとディルク
王立ミネスト学園の薬草農園で起きた事件。
管理していた百種類以上の薬草が一斉に枯れてしまったという不可解なものだが……その原因を調査するため、久しぶりに学園を訪れることとなった。
学園――そう聞いて、真っ先に思い浮かんだのは従弟のディルクだった。
神授鑑定の儀で神剣を手にし、周囲から注目されるようになってから、あいつの性格は変わってしまった。
以前は地味で目立たず、口数も少ないヤツだったが、キアラと一緒に初めて学園に足を運んだ際、久しぶりに再会したあいつはまるで別人であった。
神剣を手にしたことで、これまでもっとも欠落していた自信までも手に入れていた。
キアラの話では、その自信に見合うだけの成績を残しているという。
周りからの注目も日に日に増しているとも言っていたな。
また学園に行けば、そんな自信たっぷりのディルクとまた顔を合わせることになるかもしれない。
……ただ、本音を言えば――「どうでもいい」だった。
前に会った時もそうだが、俺はもうオルランド家に未練などない。
地底湖にツリーハウスを造り、農場を開いてのんびりと暮らしている。
マルティナ、キアラ、ハノン、シモーネという頼れる仲間も増えた。
きっと、あのままオルランド家にしがみついていても、今のような楽しい生活は手に入らなかっただろう。
そんな俺が、今さらディルクに自慢をされたところで何も感じやしないんだ。
――ただ、学園へ来てくれるよう依頼したキアラは、そのことをとても気にしていたようだ。
それはきっと、他のメンバーとは違い、学園でディルクの姿を近くで見ているキアラだからこその配慮だった。
だが、俺は改めてキアラに伝える。
今の生活にとても満足していること。
ディルクがどれだけ俺を煽ってこようが、ノーダメージであること。
それを聞いたキアラは心から安堵したように微笑んでくれた。
……よっぽど気にしていたみたいだな。
ただ、俺たちが今もっとも気にしなくてはいけないのが学園の薬草農場で起きた謎の事件についてだ。
スラフィンさんから要請がかかったわけだから、真相究明に向けて気合を入れていかないとな。
◇◇◇
準備を整えると、まずはドリーセンへと立ち寄り、馬車を調達。
それから学園のある王都を目指すことになった。
「それにしても、学園で管理している薬草が全滅って……一体何がどうなったらそんな事態になるんだ?」
やはり、何度考えても不自然だ。
まず間違いなく、自然発生のものではない――だから、きっとスラフィンさんはキアラを通して俺を学園に呼び寄せたのだろう。
詳細は掴めていないが、何か裏があると睨んでいるに違いない。
……これはあくまでも俺の勘なのだが――事件の背景には、恐らくエーヴァ村やネイサン村で起きた事件が関与していると思われる。
直接の被害こそ学園だが、薬草学の研究が遅れることは国家にとっても大きな痛手となるはずだ。
黒幕はやはりこのクレンツ王国に対して何かしらの敵対心を抱いている存在として間違いないだろう。
ただ、なぜそこまでしなくてはならないのか……この辺が疑問だ。
とにかく、薬草農場を調査して、その謎を解明できるヒントでも掴めれば――状況は大きく変わってくるだろう。
「あっ! 王都が見えてきたわ!」
荷台から、キアラの叫ぶ声が聞こえる。
ようやく視界に捉えることができたクレンツ王都。
果たして、そこで俺たちを待っているものとは――
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