第70話 学園の異変
「どうかしたのか、キアラ。元気がないようだけど」
「あぁ……ベイル……」
今にも消え入りそうなか細い声。
これは思っていたよりもずっと深刻なようだ。
とりあえず、ツリーハウスの中へと戻り、詳細を聞くことにした。
「はい、うちで採れたハーブを使ったお茶だよ。これでも飲んで落ち着いて」
「ありがとう……」
俺が淹れたお茶を飲み、「はふぅ」と息を吐くキアラ。そのおかげもあってか、少し落ち着きを取り戻したようだ。
「ごめんなさい……見苦しい姿を見せたわね」
「謝る必要はないさ。この場所を第二の実家だと思ってくれたらいい。それなら、家では言いづらい悩みも、ここでなら吐きだせるだろ?」
「ベイル……」
キアラは瞳を揺らしながらこちらを見つめる。
それからようやく事情を説明し始めた。
「うちの学園には、魔法薬研究のための専門農園があるの」
「専門農園?」
まあ、あれだけの敷地面積を誇っているんだから、それくらいの施設があっても驚きはしないな。キアラの母親であり、原作ゲームにも登場するスラフィンさんの魔法研究室も結構な広さだったし、実験で使うと思われるさまざまな器具も充実していたし。
――どうやら、その農園で何か問題が発生したみたいだな。
「農園で何かあったのか?」
「そうなのよ! 信じられないことが起きたの!」
突然立ち上がったキアラは怒りをぶつけるように大声をあげる――が、すぐにそんな自分の行動を反省して「ごめん……」と謝り、着席。
それほどまでに許せない事態が発生したってことらしい。
「詳しく教えてくれ」
「実は……その農園には百種類以上の薬草が管理されていたのだけど、今朝当番の人が見に来た時にはすべて枯れてしまっていたんですって」
「えっ!?」
それはなんというか……思っていたよりも被害がデカいな。
「それぞれの薬草の生育に適した環境を魔法で再現し、管理は徹底されていた――それなのに、今朝になったらその魔法がすべて解除されていたみたいなの」
「それって……人為的なミス?」
「分からないわ。そういうわけだから、学園は朝からてんやわんやの大騒ぎ。ママも原因究明のために呼びだされたらしくて――」
「せっかく仕上げたレポートを届けられなかった、と」
「うっ……」
図星らしい。
だが……ちょっと気になるな。
何せ、エーヴァ村とネイサン村で似たような事件が起きてすぐだし、結局、ネイサン村の畑を燃やそうとした連中は未だ消息不明のまま。
「学園の薬草農園……ちょっと見てみたいな」
「! 本当!?」
「えっ? あ、ああ」
な、なんだ。
なんでそんなにリアクションが大きいんだ?
「実を言うと、ママからあなたを連れてきてほしいって頼まれていたのよ」
「スラフィンさんが?」
どうやら、竜樹の剣の力を借りようってことらしい。
「もし乗り気じゃないならどうしようかと思っていたけど……」
「なんだ、そんなことを心配していたのか」
「そんなことってねぇ……これでも気を遣ったのよ?」
「ははは、悪かったよ」
頬を膨らませて怒るキアラをなだめつつ、俺は学園を訪問することにした。
ただ、今回の件もできれば全員で行きたい。
また前のように、大きな事件に発展しかねないからな。
果たして……薬草農園で一体何が起きたのか。
調査に乗りだすとしよう。
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